2人―第2話 「せつない想い〜恵那編」

 

 

 

 夕日が私の気持ちとは真逆のように明るく街を包んでいる。そんななか、偶然街で出会った女の子、息吹ちゃんの後を私はついていっていた。私とぶつかってしまった息吹ちゃん。私のことを心配してくれたのか家に誘ってくれた。息吹ちゃんは何かに対して怒ってるみたいだったけど、どこか悲しそうにも見えた。気のせいかもしれないけど・・・・・・。

 

 

「ここが私の家、さ、あがって。綺麗になんてしてないけど」

息吹ちゃんの家に到着する。おしゃれなマンションって感じだった。ものすごく広いとかじゃないけど都心で住んでいるという事実を合わせると、息吹ちゃんは裕福層のお嬢さんだなと思った。

「お邪魔します」

「こっちがリビングだから、そこ座ってて、お茶入れる」

息吹ちゃんがそう言ってキッチンへと向かった。キッチンの様子がこちらからでも見えるつくりになっていたので息吹ちゃんの様子を見る。ペットボトルの紅茶を入れてるみたいだけど、手つきが危なっかしい。こぼさないといいんだけど・・・・・・紅茶って結構しみにもなるし。

「はい、とりあえず紅茶。クッキーとかなくてごめんね」

「いえ、いいですよ!」

突然お邪魔したわけなんだから、そんなお茶菓子がないことで謝ることないと思ったから私は必死におかまいなくってことを示した。

「恵那って大学2年生だよね?」

「はい」

「なんで私に丁寧語??」

「初対面だし・・・・・・」

初対面っていうのは本音だけど息吹ちゃんは私より数段大人びて見えるからついっていうのもある。見た目はよく見ると幼い気さえするんだけど、態度とかがいかにも頼れそうって感じで・・・・・・。

「気使わないでよ、私はこの調子で話すけど?」

「あ、じゃあ私も・・・・・・うん、こんな感じ??」

「ん、まあ話しやすいようにね。で、恵那はなんで泣いてたのさ?」

息吹ちゃんの心遣いに感謝する。さっそく本題に入ったなと思わず視線を落とす。

「好きな人が遠くへ行ってしまうの」

「好きな人・・・・・・ねぇ」

息吹ちゃんが遠い目をしたように思えた。好きな人、息吹ちゃんもいるのかなぁ?

「なんで好きになったなんて今思えば変なんですよ! 全然好みと違うんだもの! 私黒髪で背が自分より10cm以上高くて、頭のいい人って言ってたのに・・・・・・あの人背私より2cm小さいし、茶髪だし、成績も良くないし・・・・・・全然好みじゃないはずだったのに・・・・・・」

あの人について思ったことを並べる。失礼かなと思いつつも・・・・・・。背が低いってのは私が167cmと背がかなり高いっていうのも影響してるんだろうけど・・・・・・茶髪っていうのもべつに似合ってていいんだけど・・・・・・成績良くないのも音楽に時間をかけてるからであって・・・・・・それと顔は可愛らしいんだよね〜って心の中でフォローにまわってる自分に苦笑する。

 

 

『池さん、ピアノの二重奏で出て欲しいって話なんだけど』

1年生の時の思い出のなか。部長さんがあの人を連れて私のところに来た。

『はい』

『で、こっちの子と合奏してほしいと思うんだよね、この子はあなたと同じ1年の池 恵那さん』

私の紹介を部長さんがし終えると、あの人が私の前に進み出た。

『はじめまして、岡部 雄介です。よろしくお願いします』

にっこりと優しい笑顔を浮かべてあの人・・・・・・雄介くんが挨拶をしてくれた。あれが出会い。それから、しょっちゅういっしょに練習した。お互いに演奏に妥協したくなくて・・・・・・大変だって思うこともあったけど、充実した毎日で楽しかった・・・・・・。

 

 

「でも、ピアノの練習一生懸命で、本当に音楽が好きな人で・・・・・・優しくて・・・・・・曲をいっしょにつくりあげていくなかでいつのまにか・・・・・・」

「好きになってたんだ」

息吹ちゃんの言葉に頷く。

「彼女さんがいらっしゃるし、私多くを望もうとは思わなかった。でも、彼女さんはあの人がサークルの活動ばっかになるのが辛かったみたいで、あの人にやめてくれって・・・・・・」

「はぁ? 随分勝手な彼女だね。趣味にまでケチつけるってんだ」

「でも・・・・・・日曜や休日まで練習に行って、しかもいっしょに練習してる相手が女だったら嫌だと思うの・・・・・・」

息吹ちゃんの勝気そうな目に若干ビクッとしながら、またもやフォロー。しかもよく考えれば私からささやかな幸せを奪っていった憎むべき人のような気がするのに・・・・・・でも、責めたくなくて、思わずフォローする。

「息吹ちゃんは好きな人は?」

「いないよ。あんなやつ知らない!」

息吹ちゃんが思いっきり否定する。ってことはいるんだね・・・・・・。

「いないから・・・・・・」

顔を赤らめて、咳払いをして息吹ちゃんが小声でそう言った。なんかそんなところは可愛いなと思う。

「でもサークルやめるだけでしょ? 遠くへは行かないんじゃ・・・・・・」

「あ、私は文学部で、あの人は理学部なの。だから校舎も離れてて・・・・・・サークルがなければ私たち顔を合わせることはないと思う・・・・・・」

 

息吹ちゃんは、視線を落とすと、ほとんど空のコップを持って、キッチンへとまた向かった。その表情はどこか寂しそうだった。何かを思い出しているようで・・・・・・。

 

「息吹ちゃん、大丈夫?」

「わあ!!」

なんか気になって、側まで行って声をかけた・・・・・・おどかすつもりはなかったんだけど息吹ちゃんはかなり驚いたみたいだった。

「お茶私が入れておくね、それから・・・・・・」

紅茶を入れる手を止めて、息吹ちゃんの目を見た。

「息吹ちゃんも辛そうよ? そういうときは話した方が楽だから、話しちゃって?」

「な、なんで・・・・・・」

「大学もなにも関連性のない私になら弱いところ見せても大丈夫かなって・・・・・・」

 

 今日初めて会ったから息吹ちゃんの性格とかを把握しきってるわけじゃないんだけど、なんとなく第三者だからこそ感じ取ったから話を聞いてみたくて・・・・・・実は息吹ちゃんも怒りなんじゃなくて途方も無い悲しみを抱えているんだってことを私は知ることになるんだけど・・・・・・。