2人―第1話 「2人の出会い〜息吹編」

 

 

 

 むしゃくしゃして大学を出た後無意味に街を駆け抜ける。大学の校舎自体も都心だし、今は夕方なのでそれなりに人がいる。だから走りにくい。私は別に走るのが好きではないから走ることに今なんのメリットもない。でも気持ちが抑えられなくて、ポニーテールに結ったうっとうしいぐらいの髪を振り乱しながらただ走った。梅雨の時期なのに今日は珍しくよく晴れていて夕日が大地を照らしていた。いつもならそんな夕日を眺めながら明日に思いを馳せながらゆっくり歩いて家に帰ってただろうに・・・・・・。

 

『今さ〜、新しいサークルたちあげたんだよね』

それは三曲研究会の1つ上の先輩が突然言った言葉だった。それが事件のはじまりだった。

 

『上下関係のきちんとしたサークルがいいんだよね。あんな下の学年が仕事してないとか、おかしいと思うじゃん?』

部長を通して聞いたその人の言葉。それはたぶん私へのあてつけだろう・・・・・・。私との折り合いも悪いって言ってたみたいだしね。

 

 

「ムカつく!! だったら自分でもっと積極的に働きかければいいじゃん!! そういううにゃらうにゃらした奴が一番ムカつくんだよ!!」

街中でそんなこと言いながら走るなんてさすがの私でもおかしな行動だと思った。でも言葉が勝手に口から出てきたんだよね・・・・・・だから止まらなかった。

曲がり角にさしかかり、でもそのまま走り続ける。正直疲れてきたけど・・・・・・。

 

 

「わあっ!!」

「ひゃあ!!」

 

 

ぶつかってお互いに派手にこける。声からして相手は女の子だな・・・・・・まずった。

「ごめん! 大丈・・・・・・夫??」

私はすぐに手を相手の子に差し伸べた。相手の子は泣いていた・・・・・・。

「ご、ごめん! どっかうったの? 痛いの??」

私は罪悪感でさっきまでの怒りもとんでいったようにその子の心配をした。顔色は悪く、呆然としているのがわかる。長い黒髪をかるく束ねてあとはおろしている。ブラウスやロングスカートの色彩も柔らかいその女の子はとてもおとなしそうに見えた。

「いえ・・・・・・べつに・・・・・・あなたこそ、叫びながら走ってどうしたんですか??」

意識があったので安心する・・・・・・にしてもさっきまでの私の行動はこう指摘されるとなんとも恥ずかしいものだなと改めて思った。

「ちょっと・・・・・・ムカついたことがあったもので・・・・・・そういうあなたはそんな・・・・・・泣いてどうしたの?」

「いえ、悲しいことがあったので・・・・・・」

私とその子の間に沈黙が流れる。ハッとして周りを見れば、行き交う人々が私たちをチラチラと見ていた。見せもんじゃないんだけど!!

「悲しいことね、誰かに話した方がさ、気が楽だと思うよ」

「話せる人いないです・・・・・・」

女の子は遠くを見ているような目でそう答えた。はあ、なんかそう言われると放っておけなくなるじゃんか。

「なんだったらうち来る? しばらく両親家空けてるから一人暮らし状態だし、よってくくらい全然問題ないよ、私でよかったら話聞くけど?」

こんなとこに女の子を座らせておくのもきがひけるのでとにかくその子を立たせて、汚れを軽くはらってやる。

「いいんですか?」

「いいよ。なんか違うこと考えたいし私も」

その子が気になったのもあるけど、とにかく私の精神安定にはべつのことを考えるのが必要だと思った。だから、自分のためにも話を聞きたいって思った。

 

「あんた名前は?」

「私? 恵那・・・・・・池 恵那」

恵那がか細い声でそう言った。

「じゃあ恵那って呼ぶね。私は息吹。平生 息吹、普通に息吹でいいわ」

そう言いながら私は手を差し出した。恵那は少し首を傾げて私の様子を伺うようにしていた。そして、手を握り返した。

 

 

 これが私と恵那との出会いだった。

悩みは全然違うことなのに・・・・・・

私たちの抱えてる心の闇はすごく似通ってるって気付くのはまだ時間がかかるってとこで。