「ありがとう」


 

『僕はユウギリ。16歳女。ヘリオス神聖国の天照神官長・・・・・・巫女のトップ。今は師走年末・・・・・・今日はクリスマス。僕はクリスマスが嫌いだ。だって・・・・・・寂しくなるから・・・・・・』

 

「ユウギリ殿?」

ヘリオスの聖都にある中央神殿の奥にある会議室のイスにボーっとした表情で腰掛けている絹のような美しい黒髪のユウギリというらしき少女に背の高い黒髪の端整な顔立ちをした青年が声をかける。ユウギリは曖昧な返事だけをした。

「そんなにボーっとして・・・・・・冬の狼が来たら食べられてしまいますよ」

「狼なんて・・・・・・ここには来ないよ」

「そうですか・・・・・・では、油断しているようなのでいただきます」

「!! なっ! 貴様シオン! どこ触ってるこのド変態―――――――――!!」

我に返ったユウギリがシオンという青年に拳を振り落とす。間一髪でシオンはその攻撃を避けた。

「危ない危ない・・・・・・一体どうしたんです? クリスマスだというのに」

「ク、クリスマスは嫌いだ・・・・・・ヘリオス伝統行事でもないし! 寂しいだけだ!」

「おや? 恋人がいないということですか? でしたら俺がいるのに」

「違う! その、クリスマスの夜には・・・・・・サンタが来るんだろ?」

「ええ」

「サンタは・・・・・・親なんだろ?」

「・・・・・・」

「僕は・・・・・・レイには貰ったことあるけど、サンタにプレゼントを貰ったことがない・・・・・・父さんのことは知らないし、母さんも僕が本当に小さいころに逝ってしまったから・・・・・・」

「ユウギリ殿・・・・・・」

2人の間にはしばし沈黙が続いた。ユウギリの部下の巫女が室内に入って来て、ユウギリは仕事にとりかかった。いつの間にかシオンの姿は消えていた。

 


 ヘリオス神聖国の聖都はクリスマスですっかり賑わっていた。程よく降り積もった雪。飾り付けられたクリスマスツリー、綺麗なイルミネーション、楽しげな音楽。通りには子供が両親に手をひかれ、幸せそうに笑っていた。ユウギリはその様子を微笑ましく思いながらも、寂しく思った。

ユウギリの家はさすがに高貴な身分にふさわしい和風と洋風がミックスした立派な屋敷だった。家の通りへと入るとそこは静かだった。大通りの賑やかさが遠くで聴こえる。

「メリークリスマス!」

上から声がした。ユウギリは声のした方を見上げた。屋根の上にはサンタの格好をしたシオンと長い黒髪も鮮やかな優しそうな青年レイがいた。

「シオン・・・・・・レイ・・・・・・」

「いいえ、俺たちはサンタですよ」

「あなたは良い子にしていたのに私たちはプレゼントを怠りました・・・・・・お詫びといってはなんですが・・・・・・『光よ・・・・・・』」

レイが目を閉じてそう呟くと、彼の魔力により蛍のような光がまるで雪のように降り注いだ。その光は街のイルミネーションより優しい光だった。

「では、これを」

シオンは身軽にユウギリのもとへと飛び降りてくると、大きなプレゼント箱を渡した。ユウギリが開けてみるとそこには大きなテディベアのぬいぐるみが入っていた。そして『サンタより』と書かれたカードも入っていた。

「ありがとう」

ユウギリはぬいぐるみをギュッと抱きしめてそう言った。

「それでは中に入りましょう。今日はごちそうですよ!」

レイがゆっくりと屋根から降りてきて雪を払いながらそう言うと。3人は屋敷へと入っていた。ユウギリの笑顔は両親に手をひかれていた子供と同じ幸せそうな笑顔だった。

 


『僕はクリスマスが嫌いだった。寂しいから・・・・・・でも今は嫌いでもないよ。 うん、来年のクリスマスも楽しみにしてるよ・・・・・・だって、僕はもうそんなに寂しい思いなんてする必要がないから・・・・・・』

 

おしまい

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