例えば俺とか
月曜夜8時・・・・・・。
「じゃあこれで音連会議終了します! 解散!!」
議長の声がかかる。月曜に開かれる音連会議、とりあえず今日はこれで終了とのことだ。
「宇佐美〜じゃあ書類よろしく」
議長が俺の前にどかっと書類の原稿を置く・・・・・・俺に清書をつくれってのね。
「へいへい、了解しましたよ」
俺はその束をファイルに入れて扉に目をやった。ちょうどボーっとした表情の鈴が退室するところだった。音連メンバーが次々にお疲れ〜と言いながら退室していく。議長はというと合唱の委員と話しこんでいるようだった。まあ、書類のことはわかってるし俺も帰るか。
外に出るとさすがに暗かった。8時だし仕方ない。二部の授業はやってるみたいだな・・・・・・そんなことを考えながらぼんやりと視界を巡らす。鈴がいた、だけど下に下りるんじゃなくて階段を上に上っていた。あいつ帰らないのか?? なんか気になったので俺も後をついていくことにする。
4号館の屋上に出る。人はいない。鈴は手すりに手をおいて、ただ周りを眺めているだけのようだった。といってもそっちの方向は2号館の姿とかしか見えないし、面白いもんなんてないんだけど・・・・・・もしかして落ち込んでるのか??
「鈴」
鈴が振り返る。意識ははっきりしてないように目の焦点があっていなかった。目を細めて俺の姿を確認する。
「真一、何してんの?」
「あ、おまえが屋上なんかに行くからどうしたのかなって思ったんじゃんか」
「だからってべつに来なくても・・・・・・」
鈴は呆れたような表情をしていた。
「いや、また落ち込んでるんじゃないかなって」
「そんなこと真一には関係ないじゃん、ほっといてよ」
鈴がそっけなくそう言う。鈴がこういう反応を返すのはおそらく俺相手の時ぐらいだろうなと思う。
「なんだよ〜従兄妹が心配してやってんのに! 好意は受け取れ?」
「おせっかいだと思うんだけど?」
「心配してるんだぞ、本当に」
俺が真剣な顔でそう言うと鈴は言葉につまったようだった。
「ほんとストレートに優しくするんだね真一は」
「ん? そうか?」
「里子ちゃんにもそれぐらいすればいいのに」
鈴が笑いながらそう言う。
「それは・・・・・・恥ずかしくもなるし」
俺は俯き気味にそう答えた。たぶん顔が赤くなってるんじゃないかと思う。
「優柔不断〜だからモテないんだよね真一って」
「な! おまえはまたそういうことを!! おまえだってそんなんだとモテないぞ!?」
慌てたように俺が言う・・・・・・しまったな、この手のこと鈴に言ったって効きゃしねえ・・・・・・。
「どんなんだからモテないの?」
を? 食いついた??
「そうだな、簡単に言うと親戚の俺に優しくしてくれない、どころか物凄く攻撃的」
「そう?」
「大体言ってることとか刃物だし、もう殴るは蹴るは足踏むはゆたんで絞めるはもう・・・・・・!!!」
「攻撃なんかしてるかな?」
「してる!!」
俺がおもいっきり肯定する。
「そう・・・・・・自分のこととなるとあんまりよくわからないからさ」
鈴がまた向こうを向いた。
「見失った??」
「そんなとこ。 私ってさ、箏曲の時と、バンド仲間といる時、違うよね」
鈴の声は寂しそうに聞こえた。やっぱり落ち込んでるというか元気ないみたいだった。
「まあな、俺に対しては酷いし」
「それはスルーしといてさ」
スルーすんのかよ、俺にとっては大問題なんだけどな・・・・・・。
「私さ、もう私でいる自信が無いよ」
鈴はぼんやりと遠くを見た、それでいて悲しげな表情でそう言った。いつも強気な鈴だけに、その表情はとても印象的に見えた。
「じゃあ素、出しちまえばいいんじゃん?」
「学校にいる以上それは無理かな・・・・・・これ以上頼りない私になるわけにはいかないし・・・・・・」
「力抜けばいいのに、おまえってどうしてそう下手かなぁ」
俺が呆れたような口調で言うと、鈴は自嘲気味な笑みを浮かべた。
「甘えるわけにもいかない・・・・・・って思ったけど私って今甘えてるんだよね」
鈴の言葉に首を傾げる。
「私さ、なんとなく流れでいつの間にか箏曲では自分の学年でリーダーみたいになってるのね。うちの学年の子はみんなついてきてくれるし、先輩たちも優しいからつい・・・・・・自重してないっていうか、もう本当に子供でさ・・・・・・」
鈴の言葉に相槌を打ちながら話を聞く。声色からも鈴の不安さが伺えた。
「でもリーダーだからみんなの様子把握してないといけないし、まとめるからには一番先を歩かなきゃいけないわけで・・・・・・私箏そんなに上手じゃないからみんながいなくても一人でも部室で、家で練習して、なんとかがむしゃらにがんばってきたけど・・・・・・こうやって音連の仕事とかもがんばってるつもりだったけど・・・・・・それって言い訳だよねただのさ」
「何の?」
「・・・・・・それだけがんばってるんだからみんなの上にたっても大丈夫っていう身勝手な考え」
鈴は自分を馬鹿にしたような皮肉っぽい笑顔になった。それはどこか見ている者を悲しくさせるような表情だった。いや、俺が普段の鈴を知ってるからだと思うんだが・・・・・・。
「私嫌な子でしょ。ちょっとでもカチンときたら本当に思ってることよりキツイこと言うし、真一だってそういうとこ嫌だって思わない?」
さっきそこはスルーするとか言ってたのに・・・・・・。
「思わないって・・・・・・・」
「え?」
「ん〜、なんつーかさ、俺は被害受けてるけどそんな嫌とか思わないって。おまえの言ってること滅茶苦茶とかじゃねえし、おまえ力無えから殴られたって正直痛くは無いし・・・・・・。おまえが地味にでもきちんと考えてがんばってるのはよくわかってるからさ。その辺はみんな思ってると思うな、俺」
鈴が本当の気持ちを言ってくれたと思ったから俺も本心を言う。鈴は狂犬だけど、いい奴だって思う。そりゃキツイし、勝気だし、手に負えないとこはあるけど。血がつながってるせいか憎めないっていうのもあるかもしれないけど、音楽に対して一生懸命やってる姿勢は見ていても清々しいから、そのままでいて欲しいと思う。
「でも正直どう思う? たとえ経験者で、ちょっと初心者の子より箏ができるからといって・・・・・・同じ年に入部したとはいえ1つ先輩の人を差し置いてまとめ役をやってしまう奴って・・・・・・」
「そいつがなんか文句でも言ってきたのか?」
「直接っていうわけじゃないけど、まあなんとなくそんな気が・・・・・・」
鈴が視線を下げる。結構本気で落ち込んでいるようだった。
「まあ先輩・後輩っていうのは最低限はあるな」
「そうだね」
「仮にも後輩が偉そうにしてたら先輩としてはカチンとくるな」
「そうだよね・・・・・・」
「で、そいつ、鈴のことちゃんと理解してくれてるわけ?」
「へ?」
俺の言葉が予想外だったのか鈴が視線を上げて俺を不思議そうに見た。
「鈴はわかりやすい。きちんと見てたらさ、いろいろ悩んだりしてるのとか、強がって無理してるとことか、自分を自分で必要以上に責める子なんだとかわかってくるって」
鈴の頭をぽんぽんと叩いてやる。鈴はなんか聞き分けの良い小さな子のように俺を見上げていた。まあ、狂犬だけど素直さはこいつの長所だからな。
「そんなとこまでわかる人なんていないよ・・・・・・」
「いるいる、例えば俺とか」
俺が鈴の目を見ながらそう言うと、鈴はじっと俺を見ているだけでそれ以外は反応を示さなかった。
「今だってどういうことで責めてるのかわかるぞ? 自分の過去の行動がそいつのこと追い詰めてたんじゃないかとか、そいつが起こした騒動で先輩や友達に結局は自分が迷惑かけたんじゃないかとか・・・・・・先輩や友達も本当は自分に反感があるのに優しい性格のせいで言い出せなくて悩んでるんじゃないかとか・・・・・・つまるところは、アレだな。私なんかが箏曲にいなければ丸く収まってたんじゃないか・・・・・・だろ?」
俺が簡単に予測ついたことを並べる。すると図星だったのか、鈴の目には涙がたまっていた。
「で、辛いんだろ? 泣きたいんだろ? 独りになった気がして寂しいんだろ??」
俺が優しい声色になるように注意しながら思ったことを言う。鈴は今にも泣きそうな表情で、声もなくただ頷いていた。
「泣けって。こういう時は泣いた方が楽だって・・・・・・どんなになってもさ、おまえにはちゃんとついてきてくれる仲間がいるから大丈夫だって」
「そんなの、いないって」
「何度も言わせるなっつの! 俺がいるだろ! いとこじゃねえか! 水臭いこと言うなよ!! 血、兄弟とかほどじゃねえけど多少分け合ってるんだからさ!! 苗字だっていっしょだし!!」
優しい言葉じゃなかったな・・・・・・しかも言ってることが微妙だ。
「ふ、ふぇ、ほんとは、そんなみんなをまとめたりするの荷が重かったの!」
鈴が泣き出す。華奢な外見でもないのに、その姿は儚い気がして、幼い子を慰めるように抱きしめてやった。小さい頃から思えば鈴は泣き虫で、体格のでかい俺はこうやって慰めてた時もあったな・・・・・・遠い日の記憶が蘇る気がした。
「でも! でも! まとめ役は必要だったし! 一応経験者だったし! だから、だから一生懸命練習して、がんばって、みんなの様子も把握するようにして、必死にみんなをまとめようってがんばってたの!」
鈴の話に同意するように頷いてやる。
「先輩のことだってさ! 気にしてたの! 1コ上だけど、初心者だから、1コ下でも私とかてんちゃんとか、あっちゃんとかが教えなきゃいけないし、でもてんちゃんたちは上下関係の厳しいところでやってきたからそういうのやりづらそうにしてたし・・・・・・私が教えることもあったけど、そんなのやっぱり先輩だって嫌だろうなって」
鈴が1年生の頃を思い出しながら話を続ける。ずっと、抱え込んでたのかなと思った。
「だから、伊久美先輩に相談してたの、1年生同士の輪には入りづらいだろうし、でも同級生の先輩たちは1年のころから箏曲に入ってたからそれはそれで入りづらいのかなって・・・・・・でも本人も何も言ってくれないし、どうしたらいいのか全然わかんなくって、だからみんなの時と同じように接しちゃって、でも、でも上下関係がちゃんとしたサークルがいいって先輩言ってたって聞くし、私が、私が余計なことばっかりしてたから」
鈴が自分を責めてるのが痛いほどよくわかる気がして、落ち着かせてやりたくて、背中をさすってやる。自分も人を非難してるように見えて結局は自分を責めるタイプだから・・・・・・そんな意味では俺と鈴はよく似ているのかもしれない、そう思った。
「気にすんなよ・・・・・・」
「うえ?」
「偉そうだとかそういうのはお互いの問題だろ? 本人に言えないぐらいなんだったら鈴が気にする必要もないと思う。もしさ、鈴が悪いかどうか本当に確かめたかったらみんなに訊いてみ? それで態度改めて欲しいとか言われたらそうすりゃいいじゃん? 今から自分を責めてちゃさ、鈴を支持してくれる奴が可哀想だって」
「いるかなぁ・・・・・・・支持者」
「俺が支持してやるって!」
「・・・・・・真一に支持されても嬉しくない・・・・・・」
「おまえさ・・・・・・優しさに靡いてくれたりしないわけ?」
「真一じゃ靡くに靡けない・・・・・・」
落ち込んでも俺に対してはそれかよ。
「俺に対するその態度、改めてくんない?」
「嫌」
・・・・・・まあ、持ち直したかな。さっきの、我ながら嘘だな。俺はいつもの鈴がいい。被害は受けるけど、俺を蹴り飛ばすぐらい元気な鈴がいい。俺は少なくとも元気で一生懸命な鈴を見てるのがスカッとするから・・・・・・・。
「帰るか・・・・・・あんまり遅くなってもアレだし」
「アレとか指示語ばかり使うとボケるぞ、ただでさえ大ボケなのに」
「はいはい」
毒舌が復活してきて少し安心する。
正門まで鈴と向かう。こっからだと鈴とは逆方向なので、見送る形になる。この辺りにある店も少しづつ閉まる時間になっていたようだった。
「真一、話聞いてくれてありがとう・・・・・・少しすっきりした。まだ・・・・・・もやもやするけど」
「そっか。なんかあったら言えよ。いとこなんだから気兼ねする必要ないからな」
「うん、そうする・・・・・・ありがとう、真一。あんたがいとこで良かった・・・・・・じゃ!」
鈴がいつもの感じの笑顔で手を振る。なんか押しつぶされそうなのにがんばってる気がして・・・・・・少し鈴がいじらしく感じてしまった。
「鈴ちゃん、大丈夫そ?」
「ま、まだまだごたつきそうだけど、なんとかやるだろ、鈴なら」
背後から、といっても気配でなんとなくわかってたから驚くこともなく、普通にやってきた議長と会話する。
「そうだね、鈴ちゃんおとなしそうに見えて、結構アレだからね、乗り切ってくれると思うな」
「指示語使うとボケると」
「あ、そ♪」
議長といっしょに歩いて家に向かっている鈴の後姿を見送る。おとなしそうな、弱そうな女の子に見えて、実は勝気でアグレッシブな鈴。でもそうしてるなかでもどこか変なところで繊細で傷つきやすい。まだ危なっかしいところもあるし、弱くて脆い部分もあるけど、だからこそ仲間の支えが必要だと思う。誰かが応援してやることが鈴の支えになると思う。
『誰が私なんかの応援するか!』
―俺がいくらでもしてやるって・・・・・・
『例えば俺とか』
俺の何気ない言葉は鈴の中で優しく響いたとか響かなかったとか・・・・・・。
―鈴、がんばれ!
・・・・・・心の底からエールを贈ってやった。
いつも元気で一生懸命で強がってばかりいるいとこへ・・・・・・。
〜あとがき〜
突発的に書きました・・・・・・。
ちょっと箏曲でいろいろあって・・・・・・なんか思いの塊というかなにかをぶつけたくなったので、思わず書いたというか・・・・・・なのでメモなし小説です(ぇ)おそらく駄作かな(待て)
鈴の言ってることとか本当に私の思いですね。
って、ウチのサイトオフのお友達とかも見てくれているのである意味ぶっちゃけた話というのもすごいかも(笑)
真一は優しい子です。こんなお兄ちゃんがいたらいいなって書いてて思っちゃいました(笑)
小説内でも真一が鈴の一番の理解者ですから。その辺出せてたらいいなって思います♪
さて、憤りとかもぶつけたので私としてはやっつけ作品でも満足です♪