「どうしようもなく不安なんだ・・・」

 


「ユウギリは強いな」


『強くなんかない・・・・・・』


「家柄に地位に強さ、ユウギリ様には全てが揃ってますね」


『そんなわけないだろ・・・・・・』


「俺たち親友な!」


『そうだよ・・・・・・そうだったじゃないか・・・・・・』


「もう全てをめちゃくちゃにしなきゃおさまらないんだよ!」


『それしかないの・・・・・・? それしか・・・・・・??』

 


『僕は・・・・・・どうしようもなく不安なんだ・・・・・・』

 


 ガイア大陸で繁栄をきわめた国、ヘリオス神聖国。中心である聖都の昼間は市場が賑わい、通りでは人々の笑い声が響く。騎士団の砦では訓練に勤しむ騎士や見習い騎士。城では公務にいそしむ若き神王。そして神殿には国でNo.2の身分を持つ、天照神官長の少女が祈りを捧げていた。

「お嬢様」

真っ白な神官服のローブを纏った青年、レイが鮮やかな長い黒髪を揺らしながら少女に声を掛ける。

「お嬢様・・・・・・?」

ハッとし、巫女の少女、ユウギリが振り返る。

「どうなさったんですか・・・・・・?汗びっしょりじゃないですか・・・・・・」

「いや、なんでもない・・・・・・」

「お具合が悪いのなら私に言ってくださいよ? お嬢様は無理するから・・・・・・」

「本当になんでもないんだ・・・・・・」

レイはしゃがみこんで、俯くユウギリの額の汗を白いハンカチで拭ってやりながら、優しい笑顔をユウギリに向けた。

「強がらないでくださいね。 お嬢様は本当に強い方です・・・・・・でも実際はまだ17になったばかりの女の子なんですから・・・・・・甘えてもいいのですからね?」

レイの優しい言葉にこくんと頷くと彼はゆっくりと立ち上がった。

「では、私は街をまわってきますね」

ユウギリはそう言い神殿を後にするレイの姿を見ていた。


『でも、レイ・・・・・・今甘えたら僕は立てなくなる気がする・・・・・・』

 


 次の日、ユウギリは仕事として、ヘリオス城にレイとシオンを連れて向かった。重々しい雰囲気の漂う会議室へと赴き自分にあてられた席につく。向かい側には近衛兵隊長であるリンが座り、左隣には騎士団長のトワが座る。そして右の方向、上座にあたる場所に神王、アスカの席がある。大臣たちも席につき、最後に栗色の髪とゆったりした藍色のマントを靡かせながらアスカが部屋に入り、席についた。アスカの席はユウギリが
1番近い場所にあるが、ユウギリにはとても遠い位置に見えた。

「では、これからヘリオス神聖国中央会議を始める、議題は・・・・・・」

アスカの声が響く。ユウギリは政治的な問題に対してはほとんど聞くだけであった。彼女が意見を出すのは神事的なことか、あとは魔術のことなどぐらいだった。リンと目が合うが、お互いに生気の抜けたような表情だった。会議の合間にはほんの少し休憩が入る。その間にリンはユウギリに一枚のメモを渡した。
<後で例の場所で話を。 何についてかは言わなくてもわかっていると思う。>
ユウギリはそのメモを見て頷いた。


「リン」
会議が終わり聖都の神殿の裏にある大木の下でユウギリはリンと落ち合った。大木は緑の葉で覆われ、とても生命力が感じられるとユウギリたちのお気に入りだった。今は日が落ち、緑の葉も黒く見え、不安な心を煽るようにも見えた。
「ユウギリ、話・・・・・・」
「アスカのことでしょ?」
「ああ」
「どうすればいい? どうすればアスカは昔のアスカに戻る?」
ユウギリはリンの袖をしっかり握り締めながら不安げな顔を上げて言った。リンは辛そうな表情で首を横に振った。
「わからない・・・・・・アスカはあまりにも変わりすぎた」
「・・・そうだね。あんなにいつも笑う奴だったのに・・・・・・ちょっと嫌味なことも言うけど痛快な奴だったのに・・・・・・」
ユウギリは黒い葉を見つめた。いつもアスカはこの樹の緑色の葉のように活気に満ちた少年だったのに・・・今は黒い葉が似合う闇を背負った青年という表現が合う。
「戦争になる・・・・・・」
「・・・・・・カオルをセレーネの人たちが殺したから?」
「ああ」
「僕だってカオルを殺したのがセレーネの人なら憎いよ? でもさ! 元を辿ればカオルはワオンの・・・・・・セレーネの人じゃない?」
「そうだけど・・・・・・アスカにとっちゃそんなこと関係ないんだろ・・・・・・」
「戦争したら・・・・・・セレーネで平穏に暮らしている人たちもころしちゃうかもしれないんだよ?」
「アスカはそのつもりだ」
「そんなの嫌だ! アスカはそういうこと嫌いだって言ってたじゃないか! 恨みでことを起こしたって結局はまた誰かの悲しみ、恨みの感情を引き起こすだけだよ! 何で!?」
「・・・アスカはもう元のアスカじゃない・・・・・・もう戻らない」
ユウギリは息が止まったような気がした。アスカはもう戻らない。あの3人でこの樹の下で笑い合って過ごした日々も、3人でいつかつくろうといったみんなが笑い合える国・・・・・・全てをこの一瞬で失った。
「ユウギリ、俺たちはもう覚悟を決めないといけない。 俺はアスカの側役にでもなる。 もともと俺は近衛兵隊長だしな」
ユウギリは黙って下を向いていた。覚悟とは一体・・・・・・?
「僕は・・・あがくよ。 どうすればあがくことができるのかはわからないけど・・・・・・アスカに従う身分では何も変えられない・・・・・・僕はあきらめが悪いから! アスカが元のアスカに戻らなくても今のアスカからは変えてみせるから! 絶対!!」
リンの待てという声が遠くで聴こえた。ユウギリは家に向かって歩き出す。明日は港町へ出なくてはいけない・・・・・・。


『ねえ、僕、どうしようもなく不安なの・・・・・・』

『アスカは変わる・・・・・・? 僕は何を失ってしまうの・・・・・・?』


 仕事として滞在先でいきなり2人の見知らぬ青年が部屋に入ってきて、自分を連れて行こうとした。レイの説明でセレーネ連合の一員でもある名高い海賊キリンのもとに自分を送るというものだった。レイにヘリオスに残ってもらい、先ほどの青年2人組、ハヤトとヘイナ、そして護衛のシオンに同行してもらう。自分はセレーネに行く。アスカとは敵対することになる。でも一番それが彼を変えることができることかもしれない。

『どうしようもなく不安なんだ・・・・・・』

『でも・・・・・・僕は進む、不安だけどそれは絶望じゃないから、諦めてないから・・・・・・』


おしまい


〜あとがき〜
ユウギリの「蒼い世界のなかで」本編少し前の話です。勝気なユウギリですが、彼女は不安に押しつぶされそうな一面もあります。この話では1,2位に強く、精神的にもかなりしっかりしたキャラですが、もろい部分を出せたかな・・・と。
深緑様、捧げ文ですが・・・このような品でよろしかったでしょうか?
短文も暗くなってしまってすみません!!

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