「これ、誰んだろ?」

 


 謎の物体が朝起きてみるとあった。自室の机に・・・。ハヤトはその物体をとって眺めた。その物体は二本足の白い物だった。てっぺんはぼこっと出ていてその先には線のようなくびれというかへこみというかそんなものが入っていた。とにかく小さくハヤトはそれを親指と人差し指でつまんでいた。

「これ誰んだ? っていうか何だこれ??」

ハヤトは寝癖でさらにぴんぴんとハネている頭を掻きながら首を捻った。あたりを見回してみるとヘイナはすでに部屋を出ていた。シオンも同じくだ。

「ヘイナか、シオンのものだよな」

ハヤトは身支度を整えながらぼや〜っとした頭で考えた。

「でも・・・・・・へイナはこんなもの持ってたか?」

謎の物体を入念にチェックする。ヘイナは持ち物すべてに名前を書いている。子供みたいな気もするが・・・。もともとへイナが新入りの時、まだ自分も子供で、彼を騎士団出身というだけでいじわるしてやろうと思い、言ったことが原因だったのだが。

『自分の持ち物ぐらい把握しておけよ! ボーっとしててとられたりしても文句言えねえんだからな!』

『そういうものなのか・・・・・・?』

『俺たちは賊なんだからな!!』

それは冗談だった。仲間同士でものを取り合う集団ではない。少なくともここ、キリン一派では。

『名前でも書けば? そしたらとられても自分のだって主張できるぜ?』

からかってやった。持ち物に名前を、なんて・・・・・・。なのに・・・・・・。

『わかった、そうしよう』

ヘイナはそれ以来自分のものすべてに名前を書いている。油性のペンで・・・・・・。服にもきちんとタグの部分に書いてあるし、武器にも柄の下に名前が彫ってある。一生懸命剣の柄にナイフで名前を彫っているヘイナは妙に可愛らしかった。16歳であそこまで純真に育つものか?とハヤトは段々心配になった。キリンの部下になったからまだいいものを、外でこの調子だったら完全に悪い奴に騙されていいようにされていると思った。それ以来ハヤトはヘイナの面倒をしっかりとみてやることにした・・・・・・そんな思い出が急に蘇って、ハヤトはくすくす笑い出した。

「何一人で笑っているんだ・・・・・・?」

ハヤトが声のする方を向くと、銀髪のちょっと天然入った美青年、ヘイナがいた。

「いや、ちょっと昔を思い出していただけだ」

ヘイナは頭にはてなマークを浮かべて首を傾げた。

「なあ、ヘイナ、これおまえの?」

ハヤトはヘイナの前に謎の物体を見せた。ヘイナはそれを薄紫色の目で見ていたが、心当たりもないようで、首を横に振った。

「そっか・・・・・・だよなあ・・・・・・」

「だよなって?」

「ああ、いや、何となく」

名前が書いてなかったし・・・・・・という言葉はふせておいた。

「じゃあさ、これ誰のか心当たりあるか?」

ヘイナはじっと謎の物体を見て考えていた。おそらく記憶をふりしぼって考えているのだろう。一瞬で知らないと言ってしまえばそれですむのだがこう一生懸命考えるあたりがヘイナらしく1コ年下なだけだがハヤトには可愛く見えた。

「いや・・・・・・何となく・・・・・・どこかで見た気はする・・・・・・が思い出せない」

「見たことある・・・・・・か」

ハヤトももう1度謎の物体を見る。そういえばどこかで見た覚えがある。現物というよりこれに似た何かを。

「う〜ん、わかんねえな・・・・・さがすか。 暇だったらおまえも行こうぜ」

ハヤトはズボンのポケットに謎の物体を入れるとヘイナと共に部屋を出た。同僚や弟分に尋ねてみるがその物体が何なのかはっきりとした情報はつかめなかった。

「ハヤト」

ハヤトは名前を呼んだ少女、ユウギリを見る。別に名前を呼ばれただけだがユウギリに呼ばれると自然と心が躍ってしまう。

「何だ? どうかしたか?」

「シオン、知らない?」

ハヤトは思わずムッとしてしまった。何となくだがユウギリはシオンをハヤトやヘイナとは違う目で見ている。本人は認めていないがおそらくハヤトが彼女を見るのと同じ目でシオンを追っているのは・・・・・・ほぼ確実だった。

「さあ・・・・・・シオンに何か用でもあったか?」

「まめちゃん、知らないかな・・・・・・って」

「まめちゃん??」

「うん、じゃあ・・・・・・僕シオンとまめちゃん探すから」

ハヤトはユウギリの背を見送っていた。『まめちゃん』とは・・・・・・? ユウギリは召喚士だったが連れの聖獣はいない・・・・・・それとも小さい聖獣、ペットを連れていたのだろうか・・・・・・。すると後ろからシオンがやってきた。シオンはハヤトよりも16cmも背が高く、つまり目立つ。額を押さえながら歩いている。

「おい、シオン、ユウギリがおまえのこと探してたぞ」

「ああ・・・・・・そうですか・・・・・・やっぱり・・・・・・」

「やはり? とは?? それに何か困っているようだが?」

「ええ、2人とも豆柱を知りませんか? 小さい白い物なのですが・・・・・・」

シオンの言葉に2人が反応する。ハヤトはポケットから物体を取り出しシオンに見せた。

「ああ! これですよ! 良かった、あって・・・・・・」

シオンがホッとしてその豆柱というらしきものを受け取った。

「豆柱っていうのか?それ・・・・・・」

「正式な名前はわかりませんが、一応。 ここに線のようなくぼみがあるでしょう? ここに箏の絃をのせるんですよ」

シオンのその言葉で2人はああと思った。おそらくユウギリが弾いていた箏の絃をこれに似たもので支えているのを見ている。多分どこかで見たというのはそれだ。

「でもそれってもっと大きくなかったか?」

「ええ、ユウギリ殿は普通の柱というサイズのものと小柱という少し小さめの柱しか使った曲しか弾きませんから。 もっともアサヒ様もそのようでしたが・・・・・・小さいころこの豆柱をユウギリ殿が気に入ったようで、アサヒ様はユウギリ殿にあげたそうです。 以来ユウギリ殿はお母様の形見として胸元にいつも大事にしまっていたのですが・・・・・・昨日これを出してそのまま私が持っていたものですから・・・・・・」

ハヤトがシオンの言葉にひっかかりを覚えた。

「何で・・・・・・ユウギリの胸元に入ってる物をおまえ・・・・・・出したんだ?」

「着替えを手伝っているものですから」

あっさりとシオンが答えた。たしかにユウギリの家は侍女もいて、着替えを手伝わせているもの不自然でないといえばないが・・・・・・普通に考えて17歳の年頃の女の子が男に・・・・・・世話係で母親代わりのレイならまだしもシオンに着替えを手伝わせるなど・・・・・・。

「シオン、ここにいたか」

ユウギリが再びやってきた。

「あ! まめちゃんだ、あった!」

豆柱でまめちゃん、らしい。幼いころから大事にしているものだけあって可愛らしい呼び名でいつもならその様子に顔をほころばせて見ているハヤトだったが先ほどの言葉で表情が完全に歪んでいた。

「ねえ、シオン。 胸当てで胸がちょっと苦しいんだけど、緩めてくれる?」

「はい、わかりました」

ハヤトの表情がまた歪んだ。シオンが『それでは、また』と振り返って言ったが笑顔が勝ち誇ったように見えた。

 

 その日の昼食も夕食も酒も・・・・・・ハヤトには苦かった・・・・・・。

 

 

〜あとがき〜

 大和様リクエストの短文でした。お題がこれでしたし、ハヤトでということでしたのでちょっとコミカルな感じを目指しました。結局ハヤト不幸・・・みたいなノリになってしまいました・・・。ごめんね〜ハヤト(笑)謎の物体の正体は箏の道具でした。やっぱり箏ネタにはしってしまいました(苦笑)

ハヤトの設定で本編では伝わりにくいのですが、何気にヘイナとハヤトだとハヤトの方が常識的でお兄さんタイプなんですよ、という感じです。あとユウギリはお嬢様育ちなのでやや常識が欠けています。なので平気でシオンに着替えを手伝わせています。シオンは紳士が基本ですがちゃっかりしているので黙って手伝っています。メイン4人で一番常識人なのはハヤトかもしれません。

大和様、このような品でよろしかったでしょうか?久々に暗くない文が書けました。

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