お題36「何でこうなっちゃったのかな?」
 えいが実際に直面している悩みの欠片から出来た突発的作品です(汗) 登場人物にはモデルがいたりしますがフィクションということで☆ 物を語り手にしてみました♪


「何でこうなっちゃったのかな?」

ある大学の屋上で箏を抱えた女性が自問自答していた。

「こんなはずじゃなかったのにな・・・・・・」

ポツリと呟く、小さな弱々しい声で・・・・・・。

 

 

 このお話は私が見聞きしたお話。私? 私は箏爪。結構長く使われてるから魂が宿ったんだ。私を使っているのは今大学2年生の女の子。名前ももちろん知ってるけど、このお話では彼女の名前のひとつ“箏曲さん”と呼ぶことにする。

 

 箏曲さんは今通ってる大学に入って、5月後半に箏曲研究会っていうサークルに入ったの。私を連れてね。もともとものすごく箏が好きだったっていうわけでもないのに一生懸命練習して、私もいきなりの変化にびっくりした。よほど同じ年ないし年のほとんど変わらない子との合奏が楽しかったんでしょうね、箏曲さんはどんどん箏にはまっていった。時間が空いては部室や和室に行って練習。1年の間にだいぶ上達したんじゃないかなって思う。サークルが楽しくて楽しくて仕方が無いって感じだった。そして2年生になって、役職持ちになった。音系議員っていうのになって、また少し忙しくなった。最初は慣れなくて会議もめんどくさそうにしてたように思えたけどウェルカムライブっていうイベントあたりでだいぶ溶け込めたみたいで、4月からまたいっそう楽しそうにしてた。

 

 最初の事件は5月だったかな・・・・・・サークルの3年生の一人が問題を起こして、箏曲さんにとってはがんばってきたことを否定されたみたいな気分になって、すごく鬱になってた。しばらくやる気が微妙になってたんだけど、音系の方で一回抜けた仲間が戻ってきてそれをいいきっかけだとして立ち直ったの。その後はまた曲をたくさん練習して、1年の時ほど和室には通えないけどやっぱり練習してたって思うな。

 

 そして、今の・・・・・・箏曲さんにとって、サークルにとってピンチを迎えることになるまで・・・・・・。

 

「私、箏曲が楽しかった」

和室に練習しにきて、箏曲さんが同学年の友達に話してるのが聞こえる。

「みんなや先輩と合奏して、自由だけど一生懸命やっていくのが大好きだった、箏弾くのもただただ楽しくて・・・・・・なのに」

箏曲さんの声は生気が無いような気がした。

「続ける自信すら今は・・・・・・無いよ」

らしくない、直感的にそう思った。箏曲さんはサークルで1番といっていいほど活動熱心で練習熱心で・・・・・・サークルをやめそうな人では決して無いとみんなが思ってるんじゃないかと見受けられるのに。

「何でこうなっちゃったのかな・・・・・・」

ポツリと呟いた・・・・・・。

 

 

「これ来年引き継ぐわけでしょ?」

ある日の音系会議、これはミューフェスの反省会なのかな? カバンの中で会話を聞きながら様子をさぐる。箏曲さんはいつでも私を連れてるからもう声だけで誰かわかるぐらいになってきたんだよね私も。

「そうだね、それぞれノートにまとめるなりで来年度の音系議員にちゃんと伝えること!」

議長さんの声がした、何人かがは〜い、と返事する声が聞こえた。

「私は、脳みそに入れとかないと、来年も・・・・・・・私・・・・・・」

「そうだね♪」

混声さんとの話し声だ。来年もこのままなら音系は箏曲さんが箏曲の音系議員としてやるはずなんだけどはっきりと断言しないあたり本当にやめることを考え出してるんじゃないかなって思った。

その後も会議が続いて、夜遅くまで箏曲さんも音系議員としてお仕事して、混声さんとロックさんといっしょに帰った。

 

「来年もミューフェス参加したいけど・・・・・・」

家に着いて部屋に戻るなり箏曲さんはそう呟いた。

「箏曲にいるのも・・・・・・な」

寝転んで、お稽古場で使っている楽譜を次々眺めているのかな、楽譜がめくれる音がした。

「やめちゃおうかな、ううん、やめたいかも」

箏曲さんはそれだけ言うと寝てしまったようだった。

 

 

「あ〜ねむい〜!」

音系の任務で朝早くから登校して任務が終わり授業までの空き時間を過ごそうと5号館という最も空いているホール前の場所に来る。メンバーは箏曲さん、マジシャンさん、混声さん、フリーウェイさんのようだ。

「ここ眠くなるね〜」

「寝ちゃえ寝ちゃえ!」

「横になってるし」

女の子4人の集りになっていて、箏曲さんも心なしか安心してる感じがした。4人とも寝転がったのかそんな音がした。静けさが広がる。

「来年、箏曲あるのかな・・・・・・」

「え?」

箏曲さんの突然の切り出しに3人が驚いたようだった。

「どうして? 人数少ないから??」

「それもあるんですけど、私はじめみんなやる気無くしそうです、このままじゃ」

「なんかあったの?」

音系の仲間というのは信頼でつながっているためか心配そうな声になっていた。箏曲さんがいつも元気というのもあるかもだけど。

「先輩がいろいろ勝手に決めちゃって、先生呼ぶとか・・・・・・うち先生いなかったんですよ、で先生がいた方がいいっていうのはわかるんですけど」

箏曲さんが憂鬱そうに語る。

「なんか最初はこの曲集をやらなきゃいけないとかいう面倒な条件があったり、月3000円支払わなきゃいけなかったり・・・・・・まだ移転して充分たってないんでこっちに倉庫もらって来るか、向こうにとどまりつづけるか方針も決まってないから」

「そうだよね・・・・・・決まってないことがあるのに決まりごとができちゃうとややっこしすぎるよね」

「ですよね。なのに先輩1人で決めたみたいで・・・・・・」

「え〜、サークルなんだからそれはみんなで決めないとだめだよね」

「それに月3000円ってキツイよね」

「勝手に決めてるんだったら先輩後輩関係なく退けられると思うよ」

3人が励ますように同意してくれる、それだけでも箏曲さんにとっては救いのような気がしたんじゃないかなと思った。

「なんとかなるといいな・・・・・・」

先生のことが問題なんじゃないんだろうか・・・・・・箏曲さんの声にはまだ影があるように思えた。

時間も過ぎ、それぞれがそれぞれの場所へと向かった。

 

 

「箏曲さん」

「わ!!」

箏曲さんの驚いた声がした。話しかけたのは管弦さんかな。

「驚いた?」

「人が考え込んでるところ不意打ちだったもので」

「すみません」

「いや、謝らなくてもいいですけど」

話している相手は管弦さんで間違いないな。箏曲さんにとっては音系での弱点でもある。なんで弱点かっていうと、箏曲さんはいつもしっかりしなきゃいけないとか、強い子でみんなをひっぱらなきゃいけないとか思って過ごしてるから気を張ってる面があって、でも管弦さんのマイペースさには振り回されるところがあるみたいでその気を張ってるところが自然と抜けて素になってしまうから油断できないっていうかそんな感じみたい。

「箏曲さん気滅入ってる?」

「え? なんでですか??」

「何かテンション変だったように思えたんで」

「管弦さんに言われたくないです」

苦笑が漏れるのが聞こえた。徐々に気を張ってるところがとれていくような感じが今してるんだろうなと思った。

「箏曲でいろいろあって・・・・・・」

「あ、同学年の子が消極的で心配っていうやつ?」

「う〜ん、それもあったんですけどもっとヤバイ状態・・・・・・かな」

箏曲さんが溜め息まじりに女の子3人組に話したことと同じことを話す。思いをめぐらせているのか言葉をがんがんつなぐいつものしゃべり方じゃないなと思った。いつももたしかに話すの遅いけど今はもっとゆっくりな感じがした。

「月3000円は高いよ」

「やっぱり高いですか?」

「うん。年5000円っていうのは安いなって思うけど、月3000円は・・・・・・」

「ですよね・・・・・・そんなふうになったらみんないてくれるかもわからないし新入部員がいなくなっちゃいそう・・・・・・」

悲観めいた考えしか浮かばないのが嫌で、または手持ち無沙汰な感じがしたのか箏曲さんはカバンから私を取り出して、指にはめて、指の体操をするように箏の手をやったりした。

「一人で勝手にいろいろ決められちゃった気がして、ミューフェス終わって学祭に定期演奏会やるぞ〜って思ってたところ一気に冷めちゃった感じ・・・・・・」

箏曲さんはじっと私を見てるようで、もっと遠くを見てるような目をしてそう言った。

「やめちゃおうかな、箏曲・・・・・・」

「・・・・・・管弦入る?」

「いや、それは遠慮します」

苦笑交じりに返す。箏をやる意志があるのは変わらないようだった。

「その先輩に言って、無しにしてもらえば問題はなくなるんでしょ?」

「みんなのやる気はどうなるかわかりませんが・・・・・・」

「でも箏曲さん自身のはさ、とりあえず」

管弦さんの言葉に箏曲さんは考え込むような表情をした。

「違うのかな・・・・・・」

「え?」

「その話はただのきっかけなのかも・・・・・・」

何かに気付いたのか、まっすぐ、それでも遠くを見るような目をしてそう言うと私を指からはずして、小さな手のひらにのせた。

「私、箏曲ではまとめ役なんですよ、2年生のリーダーだし音系議員だし・・・・・・だから責任とかそういうのはやっぱりのしかかってて、しっかりしないといけないし、みんなより練習して周りに気を配れるぐらい余裕持ってないといけないしとかいろいろ・・・・・・」

いつもより小さい声で話してるのがなんとなく本音を語っているのかなという気にさせた。

「でも、最近なんだか箏曲では私『この子は〜だから』『この子ならこれはできる』とかわりと決め付けられてる感じがして、すごく圧迫されてる気がしたように思えます」

箏曲さんは私をポケットに入れると祈るような仕草でそう話した。

「だからすごく窮屈で、その言葉に自然と押さえつけられてる気がして・・・・・・曲だってやりたいものはできなくてやりたくない曲を押し付けられたり・・・・・・身動きがとれないみたいで・・・・・・」

「それが、嫌なんだ」

箏曲さんはコクンと頷いた。

「私だってできないものたくさんあるし、やりたくないことだってある。性格はいっしょにいたらそれなりに見えてきてるんだろうけどそれでもそこから全部決められるほど単純にはなりきれないし・・・・・・でも、みんながそれを望むならそうあらないといけないのかな・・・・・・なんでだろう、ただみんなの役にたちたいなとか思ってがんばってただけのはずなのに・・・・・・・何でこうなっちゃったんだろう・・・・・・」

「滅入ってるね」

「滅入ってますかね」

箏曲さんが訊き返すと管弦さんは苦笑した。

「あれこれ考えすぎない方がいいんですよ、こういう時は」

「でも考えないではいられない状況ですし」

「別に考えてもいいよ?」

「はい?」

思わず気の抜けたような声が出てしまったようだった。相変わらず他の音系仲間に不思議系と言われた管弦さんのペースがつかめないようだった。

「だからね、箏曲さんは『よく考えて』って言われたら考えなきゃいけないって考えすぎちゃうし、『考えない方がいいんだよ』って言ったら考えちゃだめ考えちゃだめっていう感じになっちゃうんでしょ?」

「え、うん、まあそうなのかも・・・・・・」

「まあ、なんだ、箏曲さんがやりたいようにやればいいと思いますよ」

そう言ってあまり緊張感のないいつもの笑顔を管弦さんが浮かべると箏曲さんもつられて笑った。

「はい」

「がんばれ」

「がんばります」

「がんばりすぎないように」

「難しいですね」

掴みづらい会話をして、別れた。箏曲さんは手にもったまま学校を出ようと門に向かった。

 

 

「あ〜お疲れ様で〜す、これからみなさんどうするんですか?」

知った声に箏曲さんが反応したように立ち止まった。視線の先にはサニーさん、混声さん、グルービーさん、マスターさんがいた。

「ん〜、僕は今日授業もう無いからサークルしにあっちのキャンパス行く」

「お疲れ様です!」

「マスターは?」

「俺? 俺はこれからまた練習、公演近いしね」

「あ、見に行くから!」

「どうもで〜す、サニーさんは?」

「うちもサークルです♪」

会話も聞きながら、箏曲さんはその光景を見てた。少しボーっとした表情で。

「それじゃ!」

それぞれが手を振って別れる。混声さんが箏曲さんの方に向かって歩いてきた。

「あ、お疲れ〜」

「混声さんサークルですか?」

「とりあえずうちは授業、もう出とかないとやばいし」

2人とも苦笑する。学生である以上単位は重要だしおろそかにはできないところだ。

「混声さん」

「ん?」

「私とりあえず箏曲でがんばってみます」

箏曲さんの目は多少疲れた感じだったが前向きな以前のような感じになっていた。疲れは多少仕方ないのかもしれないと思った。

「そっか。うん、がんばろうね」

「はい!」

「それじゃね〜」

手を振って別れた。しばらく箏曲さんは混声さんの歩いていった方向を見ていた。

 

 

 

――あの、箏曲さん?

『何?』

――なんで急に前向きになれたの?

『うーん、みんなさ、がんばってるなぁって思って』

――それだけ??

『だってさ、みんな大変そうだけど輝いてるって感じだったもの』

――輝いてる・・・・・・

『好きなことやってたらさ、多少大変でも困難があっても乗り越えられると思うんだよね。そして一生懸命打ち込むから自然と輝くんだと思う』

――じゃあ我慢するの?

『我慢はしない。少なくとも改善しないとね。好きなことができる自由でのびのびしてて、でも一生懸命箏を奏でるサークル、それが箏曲研究会ですって言えるようにしてみせるよ』

――そう、がんばって

『うん、適度にがんばるよ。“何でこうなっちゃった”って後悔したりしないで“こうできた!”って実感できるようにがんばる。私がやりたいようなやり方でね』

 

 

 

 箏曲さんは私を右手の親指・人差し指・中指にはめて練習をする。左手にはかたいまめをつくったり・・・・・・一生懸命やってれば、大好きなお箏を弾いてれば見えてくるものがあるかもしれない、やりたいようにやってがんばれば何かが変わっていくかもしれない・・・・・・箏曲さんはそう信じて私をはめて一生懸命箏曲やってます。



〜あとがき〜
 突発作品でした。語り手は箏爪。私の使ってるのはわっかが赤なので何となく女の子イメージでしたね、というより私が使って魂が宿ったら女の子じゃないかなと。心理的に実話です。箏曲の問題点は実話です・・・・・・ね。箏爪は全てを見ているわけじゃなくカバンの中に入ってる時は音声のみで様子を語ってます。のでちょっと情景描写が薄すぎたなと思いますがまあ突発だったのでご愛嬌ということで。
物語内の箏曲さんは前向きにがんばろうという気を起こしました。はてさて、私自身はどうなることやら(遠い目)
箏は今でももちろん弾くの大好きですけどちょっとサークルがストレス溜まり場みたいになりつつあるので何とかしないと本当にやってられなくなってしまうのでがんばらないとね。
というか物語内の管弦さんは不思議キャラ度が低いな(待て)
音系ネタこういう感じでいけるかも(はい?)
まあ、こういう心理的憤りを作品にぶつけるのもまた良いかなと。私自身も良い展開になるといいなと思いながらラストは書いてみました♪ 何かが変わりますように、変えられますように・・・・・・。

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