他人に選択肢を作ってもらうのはいいけど、決定権まで委ねちゃいけないよ
「ヘイナ・・・・・・? ヘイナ!」
「え!?」
銀髪の誰もが認める美少年、そう言われるヘリオスの若き騎士ヘイナは自分を呼ぶ声に驚いた表情で振り返った。
「またボーっとして・・・・・・頼りないなあヘイナは」
「す、すまないヒスイ殿・・・・・・」
「まあ城の巡回だからまだいいけど何かあった時そんなんじゃ困るわよ? ちゃんと私のこと守ってくれないと!」
「・・・・・・ヒスイ殿は俺が守るまでもないと思うが・・・・・・?」
「何よそれ!?」
ヘイナの前に立つ少女ヒスイは、ヘイナの1つ年上で同期の騎士である。見た目は小柄でパッと見騎士には見えないのだが剣を持たせればその辺の大きい図体の男を圧倒する実力を見せる。魔法に関しては簡単な回復魔法程度しか扱えないようなのでヘイナと組むことが多いのである。
「私だって女の子なんだから!」
「今の世の中女性が守られているという印象はあまり受けないのだが・・・・・・違う?」
「それは・・・・・・まあそうだけど・・・・・・こうさ・・・・・・わからないかなあ?」
「??」
ヒスイは首を傾げている少年に少なからず惹かれていた。ヘイナは見目も良く、腕も立ち性格も素直で良い。そのため女の子にはかなりモテる。しかしながら如何せん本人極度に鈍感なのである。自分が、人気があることなどわかっていないだろう。まして遠まわしの言い方では到底気持ちなど伝わりはしない。ヘイナに守ってもらいたいなど・・・。
「へ! 平気だってば!!」
「そんなことおっしゃったって俺はあなたの護衛ですし?」
「いい加減僕だって平気だ! 一人で行ける!!」
「あなたがどう言おうと俺が守ります」
「いらないってば!!」
ヘイナとヒスイの目にいつもの光景、天照神官長ユウギリとその護衛のシオンの攻防がとまった。ヒスイから見て・・・・・・いや、誰が見てもシオンは好青年でヘイナとは違った印象だが端整な顔立ちの美形だった。当然女性に人気だが、ヘイナと違って鈍感ではない。ただ彼は彼の目の前にいる少女にしか興味が無く周りの女性は興味の対象外のようだった。あんな風に熱烈に恋慕ってもらいたいな、とヒスイは思った。
「いいなあ・・・・・・」
「仲のいい兄妹みたいだな」
「え!?」
「・・・・・・違うのか?」
ヒスイはさすがに脱力してしまった。あの2人をして兄妹とは・・・・・・。トワはどういう風にヘイナの教育をしたのだろう・・・・・・ヒスイはこの天然記念物なみの鈍感少年の将来が心配になってしまった。
「はあ・・・・・・」
「??」
「・・・・・・ヘイナさ、最近ボーっとしてること多いけど・・・・・・何かあったの?」
「いや・・・・・・ヘリオスはこのまま・・・・・・どうなってしまうのだろうかと」
「・・・・・・いい方向には向かわないかもね・・・・・・」
「やはり、そう思うか」
「でも私たちは所詮平の騎士だしね。政治には首をつっこめないよ」
「そうだな・・・・・・反逆者にでもなるぐらいか」
「え!?」
ヒスイはヘイナの言葉に驚いてその薄紫色の瞳を覗き込んだ。
「・・・・・・何でも無い」
ヘイナはそう言うと城の廊下を進んだ。ヒスイもヘイナの後に付いて行き、巡回任務を続行した。何か話していたはずだがあまり覚えていなかった。不安だけが押し寄せてきた。ヘイナがどこか遠くへ行ってしまうのではないか・・・・・・と。
不安だから・・・・・・ヒスイはヘイナを見張っていた。表情があまり豊かでないように見えてヘイナはわかりやすかった。ヒスイのように長い時間を共にしていれば彼が何を考えているのかは大体わかった。ヘイナはヒスイのことを信頼していたし、隠し事はそんなにしない方だった。ただ、最近左手首を握り締めながら話す姿もよく見た。ヘイナの癖・・・・・・隠し事をすると何故か左手首を強く握るということをしてしまうようだった。そして、事件は起こった。
ヘイナはある夜、トワの屋敷を飛び出し、自分の家で最低限の荷物をまとめると聖都入り口の聖なる門へと駆け出して行った。
「ヘイナ・・・・・・」
「ヒスイ・・・・・・殿・・・・・・」
「どこ行くの?」
「反逆者たちから情報を仕入れる・・・・・・」
「・・・・・・じゃあ貴方も反逆者・・・・・・ね?」
そう言うとヒスイは剣をヘイナに振り下ろした。ヘイナも素早く剣を抜き応戦した。女性でありながら力は同等だった。ヘイナは魔法の詠唱をしようと集中力を高めた。
「・・・・・・ボーっとしてなかったみたいね・・・・・・よかった」
「え?」
ヒスイは剣を下げ、鞘に収めた。
「ヒスイ殿・・・・・・」
「ヘイナボーっとしてるから・・・・・・ちょっと心配だったの。でも大丈夫みたいね」
「俺は・・・・・・迷ってる・・・・・・他に道はないのか・・・・・・とか。ヒスイ殿、貴女だったらどうする?」
「私が言ったとおりにしちゃうの?」
「・・・・・・貴女の判断は正しいことが多かった・・・・・・だから・・・・・・」
「他人に選択肢を作ってもらうのはいいけど、決定権まで委ねちゃいけないよ」
ヒスイは優しく微笑んでみせた。寂しそうではあったが・・・・・・。
「ヘイナ、こういう時こそ自分で考えなきゃだめ。選択肢はあげる。引き返してヘリオスのため騎士を続けるか。このまま行って新しい道を見つけるか。どっちにしろ選んだ後は元には戻れないよ」
「そう・・・・・・だな・・・・・・行くしかないな・・・・・・俺はもうこの国に従えない・・・・・・ヒスイ殿、このことはどうか・・・・・・」
「安心して。通報したりしないわ・・・・・・私も気持ちはよくわかるから」
「ヒスイ殿・・・・・・すまない」
「ううん・・・・・・本当はいっしょに行きたいけど父も母もこっちにいるし・・・・・・でも、でもいつか追いかけていくからね」
ヒスイは泣きそうな顔を上げて必死に笑顔をつくった。ヘイナも静かで寂しそうな笑顔で答えた。
「約束・・・・・・だな」
「うん、約束」
ヘイナとヒスイは剣を出し、交差させた。騎士同士の誓いの合図だった。先の見通しはお互い悪いが見上げれば満天の星空。どこか2人に希望を持たせてくれるようなそんな感じがした。いつしか2人は爽やかな笑顔を見せ合っていた。
「では、俺はこれで・・・・・・」
「うん、元気でねヘイナ」
「ヒスイ殿も」
そうして別れた。ヒスイはヘイナの夜でもよく目立つ綺麗な銀の髪が見えなくなるまでずっと手を大きく振り続けていた。
そして時は流れて戦争がはじまろうとした時・・・・・・。
「さて、お母さんたちもコロンの居住区に住んじゃったし・・・・・・行っちゃうからね、ヘイナ」
ブーツのつま先をトントンと床に叩きながら履き、深呼吸をした。
「私でつくった選択肢、自分で選んだんだから・・・・・・いいよね? ヘイナ。ふふっ、驚くかなあ・・・・・・」
2人が再会するというのは・・・・・・またちょっと先の、また別の話・・・・・・。
〜あとがき〜
翡翠さまへのサービス作品でした♪チャットで盛り上がって書いてみました☆
ヘイナはシオンと違って相手役がいないのでチャンスが(笑)ただ極度の鈍感で恋愛にはまったく疎い(ユウギリとシオンにさえ気付いていないほどですから)ので進展はなかなかないかと思いますが頑張れ!翡翠さま♪
ヘイナがここまで純粋になってしまった理由がトワにあるかどうかはわかりませんがそれはヘイナの長所でもあり短所でもあり・・・。おかげでキリン姐さんはじめ海賊仲間には可愛がられてますが♪
翡翠さま、こんな感じでよろしかったでしょうか??