随分昔に考えたお話『花軍』の設定で書いた短文です。
ちなみに登場人物の真琴はユウギリ、桂はハヤト、汐見はシオンの前身キャラです。蒼を知っている方はその辺も注目してもらえると面白いかなと思います。
――女の幸せっていったら、いい人見つけて結婚して、子供生んで、幸せな家庭を支えることよ?
――そんな空想上でしかありえない国をおまえは望むのか? そんなことのために何故己を犠牲にする?
――戦って、戦って……それであなたは幸せなの?
「うるさい……」
自分に投げかけられた言葉が自分を闇に追い詰めていく。
「うるさい……ほっといてくれ!!」
びっしょりと嫌な汗をかきながら、その女性……
「夢……か」
質素で宿泊費の安い、宿の部屋を見渡し、着物の袖で額の汗をぬぐう。
真琴は二十歳。そんな年なのにも関わらず、無頓着に異性と同室である。
「むにゃ……」
真琴は隣のベッドで寝ている少年、
真琴は、自分の主君であった現国王、
トントン。ノックの音だ。真琴が返事をすると、扉が開かれ、背の高い2人の男が入ってきた。
「さて、私たちの旅は長いです。そろそろ行きましょう」
そう言ったのは、少し癖のある黒髪に全体的に青系の着物を纏った端正な顔立ちをした男性……
「あー? まだ寝てんのかよ雀! 起きろこのチビ助!」
そう声をあげながら、肩より少し長めの不揃いな明るい茶色の髪を垂らし、茶色い革の上着を着た青年……
「えー、もう朝なのー?」
「もう朝なのー? じゃ、ねぇ! 第一、なんで一番キツイ戦闘くぐりぬけてねぇテメーが一番寝坊助なんだよ!? 俺らより疲れなんかねーはずだろ!?」
桂の言葉にムッとしたように雀が頬を膨らませた。
「俺はね! 3人と違って一般人なの! 元
頭1つ分以上も背丈の違う、しかも整った顔立ちなものの汐見とは違い、野性味溢れ、喧嘩っぱやそうな桂と年上の女性に可愛いと小動物的人気はあるがほそっこい雀ではにらみあっても勝負すでにありといった具合だった。
「はいはい、行きますよ2人とも」
「大人げないんだよ、貴様は」
真琴が
「だー! この凶暴女! ほんっと可愛げがねぇ!」
桂は右手で殴られた箇所を撫で、左手は握りこぶしを震わせて抗議するが、これまたいつもの通り真琴はスルーしていった。
「真琴殿」
汐見に呼びかけられ、真琴が振り返る。
「何か、ありましたか?」
汐見の問いかけに、真琴は少しドキッとした。
「べつに、何もない」
それだけ言うと、またスタスタと歩きだしていった。
宿屋の近く。
大砲の音が鳴った。
街と街の間の街道……という名の荒地だ。先ほどまで滞在していた宿のある街自体が緑の無い荒地で、人が少ないため騒ぎ声などは聞こえてこない。
「花軍の奴らだ! 殺せ!!」
神聖国軍の兵士たちが銃撃を開始する。
「しゃらくせぇ!」
桂は、銃撃を逃れ、茂みへと身を隠す。地面に手を当て、念をこめる。
「
桂の手の置かれた場所から地面が裂けていき、兵士たちのいるところで爆発し石つぶてたちが襲いかかる。
「
汐見が高く飛び跳ねながら右手で空気を斬る動作をすると、水蒸気が水滴に、そしてつららが現れ、氷の剣が弾丸のように降り注ぐ。
「炎の力よ……」
真琴が祈るように目を閉じ、胸に手をあてる。
「
真琴がカッと目を開き、身体の周りに炎による風を起こし、敵兵の陣めがけて竜巻の如く進んでいく。
3人による自然の力を借りた攻撃に兵士たちの悲鳴がこだまし、撤退という声が響く。
「
桂、汐見が真琴のいるところからは離れた場所に降り立つ。雀が隠れた岩陰のあたりだった。
「なー、真琴?」
「ああ……」
真琴のいつも以上にそっけない返事に少し不服そうにしながらも、桂は歩きだした。それに汐見と雀も続く。
雀が、真琴の方を振り向いた時だった。
「真琴! 危ない!」
雀が叫ぶ。真琴の立っている背後にある崖に戦車が見える。大砲が動き、真琴に向って発砲した。
「真琴!!」
「真琴殿!!」
桂と汐見が名を叫ぶ。いつもなら真琴がこれぐらい炎で迎撃するはずだが……。
「
眩しくて直視できないような光線が弾丸を貫く。弾丸はその打ち抜かれた場所にそのまま落ち、真琴への狙いは外れてしまった。
「
岩陰から飛び出した影が、太陽の光を手のひらに集め、大きな球体となったそれを戦車に向けて投げつけた。
戦車は爆破され、崖が崩れ落ちる。
影は衝撃で目をつぶってしまっている真琴を軽々と抱きかかえ、安全な位置へと運んだ。
「大丈夫か? 真琴」
真琴が目を開けると、そこに映ったのは長くは決してないがぼさぼさの黒髪。黄色のはちまき。少年のようなまっすぐな、そして自分に向けられた優しげな瞳。
「
真琴は、身体の緊張が解けていくようだった。思わず、彼の身体には少しぶかぶかしている印象の黄色い服の袖を握りしめる。
「おい、桂、汐見! こんな荒地で真琴を一人残すな! こんな生命力の弱い地は真琴が戦うのは不向きなんだぞ!」
日向の言葉に、汐見はバツが悪そうに顔をゆがめ、すみません、と謝る。桂はおもしろくなさそうに目を細める。
「悪かったよ。俺らの配慮不足。にしても、いつまで抱いてんだよ、日向」
「え? あ、ああ、すまん」
日向が、真琴をゆっくりとした動作で降ろしてやる。日向の手が離れてしまうのを、真琴は少し名残惜しそうにしていた。
「まったく。俺たちとは別行動のわりにいい時に出やがるな」
不貞腐れたような顔で桂が日向に食って掛かる。
「何が言いたい?」
「自分から離れといて、未練たらたらなんじゃねぇのか、おまえ」
「なっ、人の気持ちも知らないで……!」
桂の言葉が気に入らなかったようで、日向は右手でかたい握りこぶしをつくっていた。
「まぁまぁ」
汐見は、桂と日向の間に割って入ると日向の方を向いた。
「こいつは馬鹿ですから、言葉を知らないんですよ。堪忍してやって下さい、日向殿」
「なに!?」
汐見の言葉に不服と桂が声をあげようとすると、それを汐見が制する。
「男の嫉妬は見苦しいですよ、桂」
「べ、べつに嫉妬なんかしてねぇやい」
桂が腕を組んで、ふんっと言いながらそっぽを向く。それにくすくすと汐見は笑いながら、また日向に向き直る。
「ときに、日向殿、一つ頼まれごとをお願いできますか?」
「あ、ああ」
日向が素直に頷くと、汐見が近づき、耳元に顔を寄せる。
「真琴殿、どうも元気が無いようなのです。でも私では何も言ってくれませんので、日向殿が話聞いてやって下さい」
日向が、真琴に視線をやり、困惑したように汐見を見返すと、汐見はくすっと笑い返し、ウインクしてみせた。
「真琴殿が誰よりも信頼してるのは日向殿ですから」
「平気か? しんどくないか?」
近くの岩に登る。その途中も日向は常に真琴の体調を心配した。
「何日かこの辺歩き回ってたらおまえの身体じゃしんどいだろ? 俺はせめてこれを渡そうと……」
日向が大きなリュックから大事そうに仕舞われた箱を取り出す。
「前、滞在した街で買ったんだ」
真琴が箱を受け取り、開封すると、そこには小さなサボテンの鉢植えが入っていた。
「これ……」
「生命エネルギーをもろに使うおまえにとっては荒地に滞在とかしんどいだろ? 緑も無いし。こんなとこじゃ野生の動物もいない。戦闘にでもなれば周りの人の気ぐらいしか補給ができないからな。かといって人の気なんて雑念が多すぎて一番薄い生命エネルギーだし」
真琴は日向とサボテンの鉢を交互に見ていた。
「まあ、おまえぐらいになったら自分の生命エネルギーも糧にできるんだろうけど、それじゃ身体がつらくなる一方だろうし。せめて植物でも持ってければいいかなと思ったんだが……旅にはせいぜい世話の手間がかからんサボテンぐらいしか持てないよな」
もっと可愛い花とかがいいかと思ったんだけど、と苦笑する日向をボーっとしたような表情で見ていた。
「ありがとう……日向はやっぱり日向だね」
「ん?」
「やっぱり優しい」
真琴が安心したように微笑む。かつての主君、樹里以外では日向ぐらいにしか見せない表情だった。しかし、すぐにその表情は曇ってしまった。日向は、汐見の言葉を思い出した。
「何かあったか?」
「日向は、さ」
「ん?」
「幸せってどういうものだと思う?」
真琴の言葉に日向は小さく唸って、答えを出したように息をついた。
「俺にとっては、真琴や樹里様が楽しそうに笑ってること。みんなが笑い合ってること、だな。幸せ、がどうかしたのか?」
「私って幸せじゃないんだって」
ふーんと言いながら、日向は腰を下ろす。優しげだが真剣な表情で立ったままの真琴を見上げる。
「幸せなんてな、人それぞれなんだよ。真琴が幸せかどうかなんて真琴にしかわかんないさ」
「うん……」
「真琴は幸せじゃないのか?」
真琴は日向の問いに少し戸惑ったように手をもじもじさせた後、首を横に振った。だが、それは否定では無く、何かの考えを振り払うようだった。
「今は幸せじゃない。樹里様がどうしてるかわからないから……それに」
「それに?」
「ううん、えっと」
真琴は日向の隣に座ると、彼の身体にもたれかかり、肩に頭をのせた。
「しっかり食べて、ゆっくり眠って、屈託なく笑って……そういう当たり前の生活もいいでしょ? そういう風に思うこともあるんだ」
日向は特に何も言わず、ただ真琴の言葉を聞いていた。
「命狙われて、戦って、戦って、旅して……ほんのちょっと、本当にちょっとだけ、普通の女の子の、当たり前の暮らしに憧れる時もあるんだ。やだね、私、弱いね」
「そんなことないさ」
日向は優しくそう言うと、肩にのっている、真琴の頭をぽんぽんと叩いてやった。
「でも、今は行かなくちゃだめだって思ってるんだろう?」
「うん……」
「自分で決めたこと、最後までやりきろう、今は。当たり前の暮らしなんていつだってできる。大丈夫だ」
「日向……」
真琴は少し潤んだ目で日向を見る。日向はただ優しい顔を向けているだけだった。
「私、日向といっしょがいいよ、いっしょにいたいよ……だめなのか? 私の幸せには……」
真琴の言葉はとぎれた。眠ってしまったからだ。否、眠らされたからだ。
「ごめんな。今はまだいっしょにいるわけにはいかないんだ。全部終わったら……普通の暮らしがしたかったらしよう。全部終わっても俺といっしょにいたいなら、その時は傍にいてやる」
日向はそう呟くと、真琴を抱き上げた。
「はぁ、しかし生命エネルギーの譲渡には未だにこの方法しかないのか。気がすすまんのだがなぁ」
日向は困った顔でそうため息交じりに言うと、そっと真琴に口づけた。日向の身体の周りに淡い光が現れ、煙のようになったそれが真琴の身体に集まる。
「離れてても、俺はおまえを思ってるさ、真琴。樹里様もきっとそうだ。俺は樹里様の代わりにはなれない。だから助けような」
日向はそう呟くと、少しフラフラしながら、真琴を運んで歩きだした。
「日向!」
真琴はガバッと大きめの音をたてて、布団からとびあがるように起きた。
辺りを見渡すと、テントの中だった。外は暗くなっているようだった。探しても、日向の姿は無かった。
「起きたか? 喜べ真琴。緑のあるところまで来たぞ!」
桂がテントの外から顔をのぞかせて、そう言った。
「日向、は……?」
真琴が心細そうな声で尋ねると、テントの外からまた2つの顔がひょこひょこと現れた。
「日向さんは、真琴をここまで運んで後、一人で行っちゃったよ。少し疲れてそうだったけど平気だからって」
雀の言葉に真琴はうつむいて、布団をぎゅっと握りしめた。
「真琴殿をとにかく頼むって……はい、大事なもの」
汐見が真琴の傍に屈み、サボテンの鉢植えを渡す。
「日向……」
真琴は鉢植えを胸の前で大切そうに抱きしめた。棘が服に少し刺さっていたが気になどしていなかった。
「汐見、桂、雀。倒れて迷惑かけて悪かった。朝になったら、出発だ。私、樹里様のところまで行かなきゃいけないから」
「ええ」
汐見が深く頷いてやる。後ろで桂と雀も笑顔で頷いた。
――幸せ云々は、暮らしがどうとかはその後だ。日向のことも……。
真琴は、一人、自分の幸せをつかむための目的を必ず果たす約束をしたのだった。
〜あとがき〜
花軍でした〜。
特に真琴と日向の話が書きたかったんです♪ だから書きました。
ちなみに花軍は忍空っていう漫画・アニメの作品の影響が強かったものです。私はアニメしか知らないんですけど……小学生の時に見てて、中学生あたりで再放送でまた見て、これをつくったような思い出が。結構懐かしいかな(つまり花軍の設定は中学生の時です)
真琴はユウギリのベースになったキャラなので、感じ似てますでしょうか? でも、好きな人に対してはユウギリよりずっと素直。年齢のせいですが真琴の方が断然大人ですね。ちなみに真琴の強さは忍空の風助ぐらい強い! を希望して設定したみたいです、当時の私。
桂はハヤトのベース。ハヤトよりガラ悪そうな兄ちゃんです。根はいい奴なんですけどね。正義感はハヤトと同じぐらい強いんじゃないかな。
汐見はシオンのベースです。恋愛してない分シオンよりまっすぐな感じ、と思いきや結構腹黒かも……。シオンより更にぐっと大人です。
雀は……ショタ好き狙いです!(待てやこら) 何で綺麗な髪の毛設定にしたのかは謎(正確に言えば覚えていない)
日向はお気に入り。ちなみにイメージキャラはらんま1/2の良牙。彼をもっとシリアスにした感じです。方向音痴では無いですけどね。でもその音痴さの名残か、ものすごい味音痴です。なので真琴の手料理も平気で食べられます。豚にはなりません(あたりまえです)
ヘイナっぽいキャラも今回は書いてませんが花軍の仲間でいます。でもヘイナよりすんげぇ話に絡ませづらい。すんごい不思議系な子なもんで。
花軍は全体通して蒼や三角戦記よりも重い感じがするんですが。私の趣味ですね。
結構昔つくった設定で書くのも新鮮で楽しかったです♪