第10章
「勃発」
コロンでのトウヤによる宣言も終わり、他の団体もひとつにまとめあげたという各リーダーたちからの報告が入り、ワオンの族長もワオンの戦士をひきつれて合流した。キタリスはルーンへ船を走らせている中皆に作戦を伝えるためにキリンの船室の会議場に集ってもらった。
「さて、これからルーンにてヘリオス軍と一戦交えることとなります。ここでまず部隊編成のことについて話したいと思います・・・作戦を含めて・・・ね」
キタリスはそう言うとテーブル一面に図面を広げた。その図面にはルーン周辺の地図が描かれていた。
「まず、部隊はサトシ様の召喚士部隊を今回は中心とさせていただきます。これはルーンが戦場の部隊・・・この場所について一番知識もあるため、といっていいでしょう。ただ召喚士のみでは直接攻撃に不安がいささかあるのでキリン様たち海上戦士の方々とセットで行動をしてもらうようにします。そして援護にまわってもらうのはワオンの方々になります」
キタリスは説明をしながら図面に部隊編成を扇形に書き込んでいった。
「地形は狭いもの。正直ヘリオス軍を壊滅させることは無理です・・・入れさせないことだけに集中してください。以上です・・・ユキ様、トウヤ様、マーラ君、ユウギリ様、ハヤト君にはちょっと残ってもらいたいのですが、よろしいでしょうか?あなたたちにはいろいろ仕事が他にあるのです。これから説明します・・・しっかり覚えてそのとおりに行動してください」
名前を呼ばれた5人は互いに不思議そうに顔を見合わせた。その5人以外は部屋をあとにした。
「結局俺らも出陣かよ」
ナツキがぼやきながら軍隊の行進に続く。ホノカは何も言わず、ルリは溜め息を何回もついているようだった。
「なあ・・・」
「ナツキ、黙った方がいいです。今は他の方々もいますから」
ホノカの指摘に頷きナツキは前を向き歩いた。
「よし!ここで待機だ!!テントを張れ!!」
しばらくして、トワの声が響いた。ルリ、ナツキ、ホノカの3人も軍から支給されているテントを張った。そしてその中に潜り込み、明日のために身体を休ませることとなった。
「やっぱり・・・納得はいかないね・・・」
ルリがぼそりとそう言った。
「そうだな・・・でも・・・戦うしかないか・・・」
「そうですね・・・あら?どちら様??」
ホノカがテントへの来訪者に気付き入り口の幕を上げた。すると若いが手紙を持って立っていた。
「ルリ殿にこの指令状を・・・念のためにお2人もいっしょに御覧ください・・・ただし決して外に漏らさぬよう・・・」
兵士の手紙をルリはしっかりと受け取ると、何かを感じ取ったのかいつもより数倍引き締まった顔をした。
「重要機密だね・・・送り主に伝言を、これくらいの任務でしたらこのルリ、こなしてみせましょう・・・と」
「了解いたしました!!」
兵士はそう言うとその場を早々に立ち去った。
時刻は明け方となりルーンの蒼い葉を弱い光が通過し、大地が徐々に青く染め抜かれてきたところだった。
「キ、キタリス先生!何で俺が・・・先生の護衛なんですか?」
「おや?嫌でしたかハヤト君?」
「いや!そういうわけじゃないけど・・・遠距離攻撃のできる奴の方がよさそうだなとか・・・」
ハヤトはキタリスの側役を命じられ兵力の中心にいた。
「いえ、君には私の仕事も少しわかってもらおうかなと思いましてね・・・君はヘイナ君と組ませた方がいいともキリン様に聞かされていますがヘイナ君にはヘイナ君でやっていただきたいものがあって・・・」
キタリスの曖昧な表現にハヤトは首を傾げた。
「それから・・・ユウギリの部隊が最前線っていうのは何でだ?キリン様とサトシ殿の作戦の段階ではユウギリたちは遠方の攻撃担当で後方に配置されていたんだが・・・」
「今回の作戦ではユウギリ様には大役を背負ってもらっているのでね・・・」
わからないところだらけでハヤトは頭を掻くしかできなかった。
「き!来ました!!ヘリオス軍です!!」
「早速のおでましですか・・・本気でいきますよ・・・!」
「お、おお!!」
「ルーンの者たちよ!私はヘリオス騎士団長のトワだ!話を聞いて欲しい!」
トワが黒い立派な馬を最前線に出し、よく通る声を張り上げて宣言調に言う。
「そなたたちの兵力ではヘリオスには勝てん!!ここは無駄な犠牲を出さぬためにも降伏していただきたい!!」
トワの話が終わるとエメラルドグリーンの毛並みを持つ不思議な馬を出し、豪奢な衣装に身を包んだサトシが前に進み出た。
「私はルーンの長!サトシ!!そなたたちの行為は侵攻に他ならない!ラリファの国王、王妃、その他たくさんの民を殺した悪国に従う義理は我らにはない!!そなたたちこそ軍を退け!!その気がないのならば私がお相手する!!」
サトシが小さな身体に見合わない程の大きな声を張り上げ、幼いながらも、衣装に着られた印象もない、威厳に溢れたトワに負けず堂々とした姿でそう言い、ヘリオス軍に一種の衝撃を与えた。
「そうか・・・かかれ!!」
トワの声でヘリオス軍が馬を走らせた。
「ユウギリ!!頼んだ!!」
キタリスの合図を受けハヤトがユウギリにそう伝えると、深く頷き、サトシと同じく武将のような派手な衣装を纏ったユウギリがシオンとレイを従えて最前線に馬を走らせた。
「ヘリオスの者たちよ!待て!!」
ヘリオスの騎士達がユウギリの姿を認め、馬を止める。
「私はヘリオス神聖国天照神官長ユウギリ!わけあってこちらセレーネに味方をさせていただいている・・・理由は言わずともわかるのではないかと思うがいかがか?」
普段の勝気な印象とはまた違い堂々とした少女という年齢を感じさせないユウギリの姿にハヤトは息を呑んだ。
「今のヘリオスの状態がどのようなものかわからないあなたたちでもないだろう?今のヘリオスはあなたたちの信じる国の姿か?理想的な国か?この戦は何のために行おうとしているのだ?それすら知らずに侵攻をしようとしているのか!?」
ユウギリの言葉にヘリオス騎士たちがざわめく。
「神王は恨みと悲しみに満ちてそれを晴らすために戦争をしているのだぞ!ただ従って戦うのがあなたたちの騎士道か!?言って止める相手ではないことは私が一番よくわかっている!なぜ反旗を翻さない?何故何も考えないかのように操られているのだ?誰も真の剣をとろうとはしないのか??」
ユウギリはいつものほうきではなく赤い棍を持ち宣誓のごとくそれを掲げた。
「私は戦う!たとえ地位を失ったって構わない!!私は自分の信じた道を進む!!神王のためにあえて剣をとろう!!我がヘリオスのため、ヘリオスの太陽の紋章にかけて!!」
「先生・・・あれは・・・」
ハヤトが隣にいるキタリスに小声で話しかけた。
「人は、言いそうもない人間から指摘を受けた場合心に残りやすいという説があります。ユウギリ様はヘリオスのNo.2。そのユウギリ様が反旗を翻す姿を見、説得の言葉を述べれば説得されてしまう可能性が非常に高まります・・・衣装や武器を立派なものにさせたのは彼らの威信を強めるためです」
ヘリオス軍の中から歓声が漏れた。
「そうだ!ここで戦わなければ我が国は滅びるぞ!!」
「ユウギリ様についていこう!!」
剣を掲げての歓声がまるで伝染していくかのように広まってしまう。
「ユキ様、台詞は上手くお伝えしてくださったようですね」
「あいつらラリファの・・・」
ハヤトもキタリスの言葉に感づいたようでキタリスも笑顔で応対する。
「ラリファの生き残りの方々によるサクラです。戦場に来たことで興奮気味ですしね・・・サクラをある一点に集中させ、本物のヘリオス軍を囲むようにして配置させました。すると周りがそう叫ぶことによって反旗翻し派を多数派と勘違いしたヘリオス騎士もそれに同調・・・いつのまにか本当に多数派になり・・・ほとんどの者が同調してしまうという寸法です」
「そうなのか・・・」
「人は少数派にはなりたくないですし・・・どこの文化でもそういう動きがみられてしまうそうですよ」
キタリスはちょっと意地悪な笑顔を浮かべながら、ユウギリのいるあたりを見た。
「おまえら!裏切るというのか!!」
トワが部下たちを怒りの形相で睨みつけた。
「ユウギリ・・・この裏切り者の小娘が!!」
トワがユウギリに剣を向け、シオンがかばうように飛び出す。それよりも更に早く駆け出したのが白馬に跨り銀の髪と碧色のやはりいつもより豪勢な衣装をなびかせたヘイナだった。素早く風魔法を自分の剣にかけ、トワの剣をうけとめた。
「ヘイナ・・・貴様・・・」
「トワ様・・・落ちぶれたのですか・・・あなたは!!」
ヘイナが怒りもあってかいつもよりも強い力を振り絞りトワの剣をはじき返した。
「ヘリオスの様子をわかっていながらまだ従うつもりなのですか!!」
「理想ばかり追いかけていられるほど国の安泰は甘くはないわ!!」
トワが大きめの剣を振り下ろしヘイナと激しい剣の激音を交え激しい攻防を続けた。その間にセレーネにつこうと決めたヘリオス騎士がラリファのサクラの騎士たちと共にセレーネ側に陣を移動した。ヘイナとトワとの戦いを見、さらにセレーネに着こうと考えた者が増えた様子だった。
「くっ!!弓兵!撃て!!ユウギリを狙え!!」
ヘイナと剣を交えながら何人もの弓兵が困った様子だったがそのうちの3分の1の弓兵が弓を放つ。するとユウギリの前にレイが馬を出し、鈴をかまえた。
「神よ・・・我が正義を貫くため我らを守りたまえ・・・『聖なる壁』!!」
レイがそう唱え鈴を掲げると透明な壁ができ、弓をその部分で落とすことが出来た。ハヤトがその様子を見、左の森の木々に向かって合図をした。
「弓兵!左の森に伏兵だ!!撃て!!」
また必死にもハヤトの様子を見たトワが弓兵に命令を出し、左の森に弓を放つ、すると何故か右の森から炎があがり、弓兵たちを襲った。
「何!?・・・くそ!右だ!!左は偽者か!!」
右を狙うと右では闇の魔法により矢が消し去られ、今度は左の森から威力はやや弱いものの氷の矢が飛び出し、兵たちを襲った。
「何故だ・・・!魔法兵がこんなにいるはずが・・・!!」
「俺たちは兵力として本来数えないものな・・・」
マーラが右の森からローブ姿の少年・少女をひとまとめにしつつ、木々の間から外の様子を伺っていた。
「魔法学院の生徒をなめてもらっちゃ困る、でもいきなり兵に入れられた時は驚きだったな、トウヤ」
「そうだね・・・向こうは・・・たしか神官学校の生徒さんが鏡の魔法をかけてたんだよね?それで僕らにもハヤトさんの合図も見えたし、弓や相手の魔術をはねかえすことができるはずだけど・・・誰が魔法を??」
「さあ・・・?」
魔法の効力で兵も大分削いだところ、ユウギリやサトシを下げ、直接攻撃主体の部隊が飛び出し、召喚士部隊は弓兵、魔法兵の駆除に努めた。
「海上戦士団はただの海賊ではないことを思い知らせてやる!皆!我に続け!!」
キリンが馬を走らせ、海上戦士団で構成された歩兵部隊をひきつれながら応戦した。
カイン、アルトの両名もラリファの軍勢を従えて戦闘を繰り広げていた。2人の息の合った戦闘は何人もの兵達をなぎ払っていった。
「アルト!?後ろ!!」
アルトに背後から斬りかかってきた兵2人に矢がつきたち、一難を逃れる。
「アルト、大丈夫?」
「ユキが??」
「うん・・・でも僕は1本しか放てなかったけど・・・」
以前とは違いがたがたと震えてない戦士の姿をしたユキがアルトに駆け寄った。
「カイン!危ない!!」
今度はカインに2人がかりの攻撃という危機が訪れたが、一方の騎士の馬を少女が攻撃した。
「うらうら!一騎打ちにしろよ!」
相変わらずのけんか腰の様子で少女・・・ナツキが相手をしていた。
「これですっかり私たちも裏切り者ですね」
「ホノカ・・・悲壮感ないの?」
「すみません。そういうルリだってさっきの魔法、綺麗に命中してたじゃないですか」
「そういう指令がきたから!!」
「セレーネのものなのに」
「うるさい!!」
怒りながらルリが、笑顔を向けながらもホノカが加勢する。
「あなたたちは・・・」
「元ヘリオス騎士、そんだけ」
兵の数は互角・・・もしくはヘリオスの方が上回っていたが勢いは完全にセレーネのものとなっていた。
「くそっ!」
ヘイナとの攻防を有利に運びつつあったトワだったがキリンの部隊の攻撃を受け、形勢逆転という状態になっていた。
「トワ様、退いてください・・・!!」
「今が退き際だろう!去れ!!」
ヘイナとの攻防を繰り広げていたものの、圧倒的に不利な印象を受けたトワはうらめしそうヘイナとキリンを睨みつけた。
「退くぞ!!体勢をたてなおす!!」
トワが一声かけ、ヘリオス軍が徐々に退いていった。セレーネ軍の者たちは深追いをしないようにというハヤトの声に従い、それを見守っていた。
「ヘイナ、キリン言っておく・・・これは遊びじゃないぞ」
「知ってますよ」
「遊びで命を懸けるほど愚かではない」
「現状を見るがいい、こうは上手くもいかぬ。これは忠告だ」
トワはヘイナとキリンにそういい残すと走り去っていった。
「よっしゃ〜!!追い払ったぞ!!作戦成功だ〜!!」
「では、新たに合流した方たちもいったんルーンに入りましょう!!」
ハヤトとキタリスの声に皆が歓声をあげた。
「ハヤト君、これからあなたにある任務をあたえますからね、覚悟しておいてくださいよ」
「え、俺何かマズりました??」
「いえいえ、では行きましょうか」
キタリスの言葉に翻弄されているような気がしたハヤトだったが勝利の余韻を仲間たちと味わいながらルーンへと入っていった。
歯車の向きがどうなるかはまだわからない・・・