第12章 「マオ族の集落へ」

 

 

「さて・・・集りましたね」

ルーン長宅の会議室にてキタリスとハヤトを中心に交渉隊の会議が朝から始まった。

「我が軍はとにかく兵力が足りなさ過ぎます。それを何としてでも解決しなければなりません」

キタリスがそう言うとハヤトが隣で真剣に考え込んだ。

「ってことは・・・エイオス騎士団・・・ゼウスあたりを仲間にひきいれた方がいいってことですか?」

「たしかに、兵力の補充をしたい、大きい軍事力を期待するならそこですが・・・」

「あまり友好的じゃないですよね彼らは・・・」

トウヤが盛大に溜め息をつく。それにキタリスも同意するように頷いた。

「そう、エイオスはエルフ、ドワーフと並ぶほど我らに協力意志はありません。ゼウスもあまり協力体制をしいてはくれなさそうです」

「じゃあダフネは?」

「ダフネは好戦的ですし、味方についてくれる可能性はたしかに高いです。ただし、ダフネを最初にひきいれてしまえばゼウスの協力はかなり難しくなります」

アルトの指摘にキタリスは先を見越した判断を回答した。

「ということは・・・ゼウスはダフネと共に交渉しなければならない、ということですね」

ユキの判断に満足そうにキタリスが頷く。

「ええ、そうです・・・ただしゼウスを説得するにはもっと多くの味方がついてからの方が良いです・・・となると」

「マオ族の集落、リズ王国・・・ですね」

「ええ、今回はマオ族の集落に向かおうと思います。それで・・・毎回交渉隊には助っ人を一人は加えて行きたいと思います・・・さて、誰が良いか・・・」

キタリスと共に交渉隊のメンバーが真剣な表情で考え込んだ。

「マオ族のリーダーってジンタくんだっけ?」

「う〜ん・・・でもクリスさんって人も書類では名前見るよね?たしかジンタくんのお兄様だよね?」

「そいつらって・・・どんな感じだ?」

マオ族のリーダーについて話しているユキとトウヤにハヤトが質問をした。

「ジンタくんはハヤトさんに似て活発な男の子です。年の頃は・・・おそらく僕やトウヤくんといっしょだと思います」

「クリスさんは、年はヘイナさんかハヤトさんぐらいだと思います。ただ書類で見るだけでお会いしたことなくて・・・」

「そうだね・・・僕も見たことはないな・・・」

「リーダーはジンタくんって考えた方がいいよね・・・ということは若年のリーダーか・・・僕らといっしょの」

「目には目を・・・歯には歯を・・・だよね」

ユキとトウヤが顔を見合わせる。意見があったかのようにキタリスの方を見た。

「サトシさんにお願いしよう!」

「わかりました。ではサトシ様をお呼びしてきます。みなさんも準備をしてルーンの門に集合してください」

「了解!」

キタリスの指示でメンバー一同が遠出の支度をして門へと向かった。

 

 

「忘れ物はないか?」

支度をして門でキタリスを待っているハヤトにヘイナが声をかけた。

「ねえよ、子供みたいに心配するなよ」

ハヤトは苦笑しながら馬に跨った。

「マオ族は友好的な民族だし、めったなことは無いと思うが・・・サトシ殿の件もあったし・・・注意しろよ」

そう言って2人はサトシが以前ユキの兄セキが仕掛けたと思われるラリファの精鋭部隊の奇襲を受けたことを思い出した。

「ああ・・・おまえの方は大丈夫か?騎士の稽古、きちんとできてるか?」

「ああ、心配ない。俺よりナツキ殿の方が熱心に稽古つけてくれている」

ヘイナは何かを思い出し笑いしたようだった。

「お待たせしました・・・行きましょうか」

キタリスがサトシを連れて門にいる皆に声をかけた。

「気をつけて・・・」

「ああ、おまえもしっかりやれよ、あとキリン様のことはまかせたからな」

「心得ている」

「それじゃ!行ってくる!!」

ハヤトは最後に門をくぐりながらヘイナに大きく手を振ってそう元気良く言った。

 

 

「ルーンへの襲撃が失敗した・・・か」

暗い色彩でまとめられたヘリオス神王の私室でアスカが感情の無い声でそう言った。

「それは・・・」

「残念なことだがまあ、いい。まだこちらが有利なのには変わりが無い」

アスカはそう言いながらタマを手招きした。

「こちらにはまだいくつも手札があるようなものだ。今も密かに動いている手札もある・・・それからヘリオスの兵力を削がれないように対策をたてれば良いことだ」

タマはただアスカの話に頷くことしかでしなかった。

「タマ、おまえは幻術を使いこなせるはずだな?」

「え、ええ・・・師匠に習いましたから・・・」

「幻術に関してはユウギリよりも数倍おまえの方が上手と聞いている」

「そうですね・・・幼い頃は同門の弟子ですから師匠にはそのように聞いています・・・」

タマは緊張した様子でアスカの目をじっと見た。

「例えばいない人間を創り出すことはできるか?」

「資料があれば・・・それは・・・ユウギリさんを創りだせということですか?」

「いや・・・死んだ人間なのだが・・・それをダシに動かせそうな駒がいてな・・・」

「死んだ方・・・絵か何かはありますか?」

「ああ、騎士団に所属していたから絵はある。世間には行方不明と知らせてあるが・・・」

タマは検討もつかないようで首を傾げた。

「そいつをいるように見せかけてその駒を動かして・・・ユウギリを・・・消す」

タマは氷のように冷たいアスカの視線と声に怯えたように少し後ずさりをした。

「ユウギリさんを・・・?」

「ああ、あいつがいると向こうに流れようという考えを煽ってしまう節があるからな・・・早めに消し去る方がいいだろう」

「その駒とやらにユウギリさんを殺させるのですか・・・?」

「そうだ」

「それを、アスカ様はお望みになるのですね・・・?」

タマの若干震えた声の質問に間が空く。

「・・・そうだ」

「・・・わかりました。資料をお見せください・・・できるだけ多いほうが正確な幻覚を創り出せますので・・・」

「ああ、わかった。用意しよう」

そう言うとアスカはタマに部屋にいるよう命じ、自室をあとにした。

「師匠・・・すみません・・・あなたから教えられた術で・・・あなたの弟子でもあるユウギリさんを消さねばならないかもしれません・・・」

タマはその場に崩れ落ち今はセレーネの中心にいるであろう自分とユウギリの共通の師匠であるワオンの族長、ショウに深く詫びた。

 

 

「もうそろそろ着くかな・・・」

キタリスが太陽もすっかり昇り明るい一面の草原に馬を進めながら、ぼんやりした感じでそう呟いた。

「お!見えてきた!先生、あれですね?」

「ええ、そうです・・・相変わらず平穏な感じですね」

「お花畑が入り口手前にあるんだよね〜」

メンバーのなかで一番目のいいアルトが少し前に出てそう言いながら様子を見た。

「あれ?誰かいる・・・」

皆が花畑に目をやった。そこには銀色のやんわりとウェーブのかかった長い髪に人間とほぼ同じような容姿だが耳が猫のものと同じ形でしっぽのある・・・おそらくマオ族の者であるだろうと思われる、性別のわかりにくい人物が花に水をやっていた。

「ちょっと話聞いてくるか」

「待った・・・ハヤトだけだとちょっとガラ悪いでしょ?シオンとアルト連れてった方がいいよ」

「そうだな・・・ってユウギリ〜!!?」

ユウギリのよく聞けばあんまりな内容に肩を落としながらも同意し、シオンとアルトを連れてハヤトが向かった。

 

 

「えっと・・・すみません、マオ族の方ですよね?」

ハヤトが笑顔で花畑にいる人物に声をかけた・・・が・・・。

「え・・・わ・・・に!人間―――――――――!!?」

じょうろを思いっきり投げて腰をぬかしたようにすわりこむとそのマオ族の人物は素っ頓狂な声をあげた。

「兄さん!!どうした!!!??」

その声をはやくも聞きつけたのか金髪のいかにもやんちゃそうなマオ族の少年が飛び出してきた。

「ジ、ジンタ!に、人間が・・・」

「こいつらか・・・う〜ん・・・黒髪の兄ちゃんとはちまきの嬢ちゃんはともかくこいつは怪しいな」

ジンタがシオン、アルトの前を通り過ぎながらハヤトの前で止まりそう言った。

「なんだとこのガキ!!」

「事実言っただけだろうが・・・ほらこんなことでいたいけなマオ族の男の子につかみかかるなんて賊だね!」

「賊は賊でもキリン様の部下だぞ!!なめんなよ!!」

「ぞ、賊・・・!!」

銀髪のマオ族の青年は完全にハヤトに怯えた様子だった。

「この馬鹿!なにケンカ買ってるんだよ!」

馬を走らせてハヤトたちに追いついたユウギリはほうきで思いっきりハヤトの頭を殴った。そのいきなりの衝撃に思わずハヤトは頭を抱えてしゃがみこんだ。

「シオンも見てないで止めてよね・・・」

「ああ・・・そうですね、すみません、楽しく見てしまいました」

シオンの余裕さに呆れて溜め息をユウギリがついた。ハヤトは涙目でユウギリを睨んでいた。

「いきなり・・・しかも思いっきり殴るなんてあんまりだ・・・」

「僕馬鹿な男見るとつい・・・」

「そんなこと言うなんて・・・あんまりだ・・・」

ハヤトはさっきまでの威勢の良さはどこかにやってしまったかのように八の字を書いていじけだした。

「キリン・・・?あの海上戦士団の?」

ジンタがハヤトを一瞥するも真面目そうな表情でシオンにそう尋ねた。

「ええ、そうです。すみません、ハヤトは血気盛んで・・・でもキリン様の片腕なのですよ」

シオンが穏やかにハヤトのフォローも入れつつ答えた。するとふ〜ん、と言いながらジンタがハヤトを見やった。

「海上戦士団のリーダーの片腕・・・ね・・・アレ・・・?」

ジンタは半信半疑のようにそう言ったが目に入った人物たちを不思議そうに見た。

「ジンタ殿、久しいな・・・」

「あんた・・・サトシか」

聖獣の馬から降り、サトシが威厳を纏ったまま挨拶をした。

「ジンタくん・・・僕ら新セレーネ軍のメンバーとしてここに来たんだ」

「トウヤ・・・新セレーネ軍?」

「うん・・・そのことで話したいことが・・・」

トウヤが真剣な表情で目線の同じジンタに話しかけるが・・・後ろでど〜ん!!という大きな爆音が響いた。

「な、何!?」

「くそ!あいつらまたか!!トウヤ、サトシ、悪いな話は後回しだ・・・!!」

ジンタが表情を険しいものに変えてすばやく駆け出した。

「何?どうしたの?」

「山賊だよ!散々うちの農作物だの仲間だのを脅かす奴らなんだ!やっつけねえとまた被害が出るんだよ!・・・って兄さん!!早く村に入って!!」

ジンタが振り返って早口でそう言った。

「ハヤトくん、ここは手を貸した方がいいですよ」

キタリスの耳打ちに我にかえったように表情を真剣なものにとハヤトが変える。

「恩を売っとこうっていうハラか」

「まあ、そんなところです」

ハヤトがニッと笑って頷くと、勇ましそうな表情でジンタの方に駆け出した。

「待ちなって!俺らも行くぜ!!」

「ああ!?勝手にしやがれ!おまえなんか足手まといにしかならないね!!」

「何だとこのクソガキ〜!!」

「年上でも頭足んないんじゃないの??」

「たあっ!!可愛くねぇ〜!!」

ジンタとハヤトが他のメンバーおかまいなしという感じでつっぱしっていく。

「まったく・・・疲れるよ・・・」

「これも任務ですよ」

他のメンバーも馬にまたがり、ハヤトの馬も連れ、2人の後を追った。

 

 

初任務の舞台が用意される・・・