第13章「山賊退治」
「爆音があったのはこの辺だな・・・」
マオ族の集落に程近い山に近づき、ジンタがそう呟いた。その様子は真剣そのものだった。
「雨がふって良かった・・・」
「あ、あれは僕が・・・」
「魔法か・・・ありがとな姉ちゃん」
ユウギリの反応に笑顔でジンタが返す。
「おい、よくおまえ一人で乗り込もうとしたな・・・」
ハヤトも真剣な表情でジンタに話しかける。
「何人かがこっちに向かうと思うし・・・村を守ってもらっていないといけないしな」
ケンカ腰だった先ほどまでの感じとは違い、また村のことを第一に考えているジンタにハヤトは見直したといったような表情になった。
「相手の人数はわかるか?」
「少なくとも十数人ってとこかな・・・まあ正直俺一人じゃ相手にはできないな・・・あんたたちがいてくれて助かったって思ってるさ」
「そうか・・・セレーネの仲間って以上手助けはしてやるさ」
「頼むぜ、あんたキリンの優秀な部下なんだろう?」
「ああ、みてろって」
茂みに隠れるようにして様子を伺う。山から二十人は超える山賊らしき男たちが出てきた。
「けっこう・・・人数多いですね・・・」
ユキが弓矢を構え、冷や汗を流しながらそう言った。
「大丈夫・・・サトシ殿もいるし、負けないさ」
ユキを元気付けるようにユウギリが頼もしげにそう発言する。
「全力でいきましょう。油断は命取りです」
「戦場と同じだよ、ユキやトウヤさんは無茶しないでいてね」
シオンとアルトも気を引き締めたようで緊張が伝わった。
「みなさん、出るなら今です・・・今なら私たちがここにいることに気付いていません」
キタリスの指示に皆が頷き飛び出した。
「まぁたしょうこりもなくウチの村荒らしに来たな!!この山賊めが!!」
ジンタが短剣を手に山賊の親玉らしき男に斬りかかるがむなしくもその攻撃は空をきった。
「くそっ!!」
「またおまえか、マオ族のクソガキめ!」
振り下ろされた斧を素早くハヤトが剣で受け止める。
「何!?」
「まったく・・・ちんけな悪やってる奴は海でも陸でもいるもんだな」
ハヤトが余裕を見せ付けるかのように呟く。
「ちんけとは何だ!?俺たちは泣く子も黙るバキ一味だぞ!?そして俺こそがその頭だ!!」
斧に力をこめてハヤトに振り下ろす。また剣で受け止めるが、がたいのいい容姿からも見て取れるようにバキはかなりの力で、ハヤトも歯を食いしばった。
「こいつは俺にまかせとけ!おまえら!!他の奴らを始末しろ!!」
「へい!お頭!!」
バキの部下たちがそれぞれに攻撃をしかけに走り出した。
「賊退治か・・・懐かしいな・・・」
サトシがそう呟きつつも詠唱準備にとりかかり、彼の周りをまばゆい光が包む。
「魔法を使う気だ!!あのガキをはやく!!」
「そうはさせない!!」
そう言いながらアルトが飛び出す。俊敏な動きで山賊たちの攻撃をかわしながら片手に1本ずつ持った剣で目にも留まらないような速さで攻撃を繰り出す。一瞬のうちに3人のゴロツキを倒したようだった。だが、倒れた山賊を見ると、1人には矢がつきたっており、ユキが彼女の援護をしたことがわかった。
「我と契約を結びし異界の者よ・・・今汝の主が命じる・・・出でよ!!風獣!!ウィンダリア!!」
サトシの詠唱が響き渡ると、強い風をまとった大きな鳥が現れた。翼から衝撃波が出て、またたくまに幾人もの山賊たちを倒した。
「みな魔法は火・雷属性のものは使わないように!!」
キタリスの声が響く。
「キタリス先生、どうしてですか?」
「この山が燃えて・・・万が一マオ族の集落に引火でもしたら大変でしょう?さきほどのように雨を降らせる魔法をすぐに使ってもいいのですが、万全を期すためです」
トウヤの問に小声でキタリスが答えた。
「今回は勝てばいいってわけじゃない。マオ族の信頼を得るためだからね」
ユウギリもトウヤに小声で耳打ちした。トウヤはなるほど、というような表情で頷いた。
「おい!そこの!!」
「シオン、2人を頼んだよ」
「わかりました」
シオンの言葉を聞くとユウギリはほうきを振り回しながら山賊に向かっていった。山賊たちの武器を次々になぎはらっていく。
「凍てつく剣よ・・・『氷の刃』!!」
ユウギリの声が響き、いくつもの刃物のように鋭い氷柱が攻撃をする。
「あ!」
ユウギリの横を3人の山賊が駆けぬけた・・・後ろには戦闘要員は1人しかいない・・・。
「シオン!!トウヤ殿!!キタリス殿!!」
ユウギリの驚きが多く含まれたような声が響いた。
「どうした?ルリ殿・・・」
ルーンでの元ヘリオス兵の訓練中、隣で具合でも悪そうな様子で座り込んでいるルリに心配そうな表情のヘイナが声をかけた。
「いえ、なんでもありません・・・」
「訓練のしすぎではないか?魔法兵には休みが必要だぞ?」
「そんなことは・・・」
「顔色が悪い。休んだ方がいい」
「でも・・・」
「休め。隊長命令だ」
口調は命令だったが、ヘイナの声は優しさをおびた、部下思いのものだった。
「・・・はい」
ルリもヘイナの優しい気遣いに素直に応じることにして、与えられた部屋へと向かった。
「ルリ・・・元気なさそうだったか?」
ヘイナに後ろからゆっくりと歩いて近づいてきたナツキが話しかけた。
「ああ、顔色も悪かった」
「今頃・・・なんだよな・・・あいつの兄さんが消息不明になったの・・・」
「そうか・・・ルリ殿の兄上も魔法兵だったか・・・」
「うん、優秀な・・・ね。ルリは小さい頃に両親亡くしてるからお兄さん・・・サイさんをとても大事に思っていたんだ・・・サイさんがいなくなってからルリは心を閉ざしてしまうようになった・・・最近はだいぶ開いてくれたけど」
そう言うナツキはどこか哀愁を帯びた様子に見えた。
「ナツキ殿・・・?」
「俺やホノカにでさえ、あいつは心を開ききってくれてないんだ・・・それがちょっと悔しいかな」
「・・・時ときっかけさえあればきっと心を開いてくれるさ」
「そうだね・・・そうだといいね」
ナツキは遠い目をしつつ、穏やかな声でそう祈りながら言った。
「はぁっ!!」
迫り来る山賊を目掛けてナイフを力いっぱい投げるシオン。攻撃をしかけながらもトウヤとキタリスを後方にかばっていた。2人は倒せたが1人がナイフを器用にはじいてしまため、突破してきてしまう。シオンの額から汗が滲む。
「接近戦しかないか・・」
投げナイフを得意とするシオンにとって接近戦は不得意だった。ナイフを手に構えながら真剣に間合いをつめる・・・が・・・。
「何!?」
迫ってきた山賊は驚くようなジャンプ力で姿をくらまし、キタリスたちの後ろに姿を現した。
「忍の者か!?」
「へっ・・・こいつを始末しなきゃな・・・」
意味深な言葉にトウヤが動き出した。
「キタリス先生には怪我なんかさせません!!」
「トウヤく・・・トウヤ様!!やめてください!!」
腰にさした護身用の短剣を抜き、構える。素人目に見てもあまり様になっていない。あまりにも無謀な行動にキタリスも声を荒げる。
「坊主、死にたくなかったらおとなしくしてた方がいいぜ?」
「ぼ、僕はコロンの領主です!!コロンの民であるキタリス先生を差し出すわけにはいきません!!」
シオンがナイフを構えるが戦闘慣れしていないトウヤの援護はできない。そう判断したシオンはトウヤの側へと駆け出した。
「じゃあ死にな!!」
山賊の剣を非力にも短剣で受け止めるトウヤ。しかし剣で最終的にはじかれ、武器はシオンの足元へと落ちた。
「さよならだな・・・」
山賊がそう呟くと剣でトウヤの身体を斬りつけた。声も無くトウヤがその場に倒れる。
「トウヤくん!!」
「くそっ!!」
シオンが思い切りナイフを投げるがまたはじかれる、山賊がニヤリと笑うが、次の瞬間には氷の柱がつきたっていた・・・山賊はその場で倒れた。
「トウヤ殿!!」
「トウヤくん!!トウヤくん!!しっかり!!」
キタリスが取り乱しているためか以前の呼び方でトウヤを何回も呼んだ。血が流れているものの、その量が少ないことに気付く。
「シオンくん、回復魔法を!!」
「大地を潤す母なる力よ・・・『蒼き癒し』!!」
シオンの詠唱が響くと、トウヤの身体を水のベールが覆い、傷を治していく・・・だいぶ治ったがトウヤの意識が戻ったわけではなかったようだった。
「昏睡状態ですね・・・」
その様子を見納めるとユウギリがハヤトたちの方へと駆け出した。そこではハヤトとジンタがバキを相手しているところだった。こっちの決着はまだついていなかった。
「頭よ!!おまえの部下はもういない!!ここで降伏してもらおう!!」
ユウギリが宣告をするが、バキは斧を捨てなかった。
「仲間がやられて降伏なんかするかよ!!おまえら全員殺すか俺が死ぬまで戦うに決まってるわ!!」
「じゃあ・・・死ね」
聞いたこともないような恐ろしい声でユウギリが言い放つと風の刃がバキの身体を切り裂いた。
「ユ、ユウギリ・・・?」
敵を攻撃することはいつものこととはいえ、あまりにも残酷なオーラをまとったユウギリにハヤトは顔色を悪くしながら様子を伺った。
「ヘリオスの回し者が・・・魔物め」
ユウギリがそう言うと、バキは見る見るうちに巨大な魔物へと姿を変え、砂のように消えていった。他の山賊も同様だった。唯一人間の形を保っていたのは先ほどの忍の技をもった山賊だけだった。
「この程度の幻術くらいなら見破れる・・・」
ユウギリが呆れたようにほうきを担ぎ、ハヤトとジンタに歩み寄った。
「幻術・・・」
「ヘリオスの奴ら・・・新セレーネ軍の兵力をあげないための策をほどこしていたようだね、マオ族の集落をつぶすために放ったんだろう・・・用意の早いことだよ」
ユウギリがちらと後ろをみやった。
「ジンタ・・・トウヤをお願いする・・・あのクリスっていう奴法力使えるだろう?」
「どうしてそれを・・・」
「僕は元天照神官長・・・魔力の波動には敏感なんだ・・・法力使いは気配がまた特別だからわかりやすい。法力使いは神官以上に回復魔法に優れてる、トウヤを頼む。早い方がいい、あの赤い鞍のついた馬使っていいから」
「・・・わかった」
ジンタはそう言うと、トウヤを引き受けて、ユウギリの馬に跨り集落へと駆けていった。
「幻術・・・見破れるのかユウギリは・・・」
ハヤトは緊張が抜けきっていないような表情でユウギリにそう話しかけた。
「僕もある程度は使えるから・・・僕が見破れない幻術使いは今知ってるだけだと2人だね・・・」
「誰?」
「ワオン族長・・・僕の師でもあるショウ殿と・・・同門の・・・タマだ」
ユウギリは遠い目をしながらそう言った。
「僕らも行こう・・・トウヤ殿はたぶん助かるはずだけど心配だし・・・マオ族たちの協力が得られるかはわからないし・・・」
ユウギリの言葉に一同が頷く。シオンが走って皆の馬の用意をした。
「シオン・・・マーラに一応伝言しといて・・・」
「了解しました」
シオンは素早く手紙にことを書くと、伝令としていつも活躍してもらっている鳥に託し、レイへと飛ばした。
「それから・・・馬かしちゃったから乗せてね」
「ええ、そのつもりですよ」
そう言うと、シオンはユウギリを馬へと乗せてその後ろに自分も乗った。
「じゃあ、またマオ族の集落に行くぞ!!」
ハヤトの声に皆が頷く。そして、足早に村へと走り出した。
「タマ・・・準備はできたのか?」
「はい・・・資料が多く手元にあったので・・・それに集中力もつけました・・・」
タマが静かな中央神殿に祈りを捧げた様子で座っていた。その後ろではアスカが静かに立っていた。
「では、これからヘリオス騎士団、魔法兵副隊長でもあった・・・サイ殿の幻術を創りだします・・・」
タマはそう言うと扇を取り出し、魔方陣を描いた。それを無事つくると、中心に正座し、祈りを捧げ、異国の言葉のような呪文を唱えた。魔方陣に光が集り、前方にそこから光をおくった。そしてその光は人の形となっていった。
「汝、今をもって、魔法兵副隊長・・・サイであることを・・・」
タマが集中のため夢でも見ているような表情でそう言うと、そこには黒髪で背の高めで、瑠璃色の瞳をもった、細身の青年が立っていた。
「よし、これで計画を遂行できるようになったぞ・・・」
アスカの不敵な笑みを浮かべるのも確認することなく、幻術の儀を終えたタマはその場で気を失った。
魔の手が魔術師の少女へとのびていた・・・