第4章「立ち上る炎」

 

 

セレーネ連合でも協力的な国ラリファ。信望のあつい王に友好的な民。港にも近く、王都の昼はいつも活気に満ちていた。商船が行き来し、積荷を降ろす光景が繰り広げられる。長い航海から戻ってきた人々が港で久々に再会した家族やなじみの人間と談笑している姿がみられた。

「それでは行ってらっしゃいませ」

「ヘリオスの噂はただの噂じゃないからな、気を引き締めて見回りをしてくれ」

ラリファの哨戒船に乗り込む兵士をこげ茶色の髪の赤いバンダナをした小柄な少女と、青い気の強そうな目を輝かせた亜麻色の髪の少年が見送った。

「・・・ヘリオスの・・・か、本当に戦争なのかな・・・」

「かもな。今回ばかりは可能性が高い」

「・・・ここも攻め込まれるのかな・・・」

少女は不安気に空を見上げた。

「まあ最悪そうだな。ここはヘリオスのすぐ側のしかもセレーネでは大きい方の国だ。真っ先につぶしにかかるだろうぜ・・・でもな」

少年の言葉に少女は首を傾げた。

「ユキだけは何があろうと守る!」

「・・・カインはいっつもそれだね」

少女は苦笑気味に言った。

「当たり前だろ?ユキは俺の全てなんだから。そういうアルトだってユキのことは守りたいだろ?」

「当然」

 

 

「お兄様!」

ラリファ城の赤絨毯が敷かれた長い廊下を白金の髪をした愛らしい顔立ちの少年が走り抜ける。衛兵たちはその様子におろおろしながらも見守っていた。

「ユキ・・・か」

「セキお兄様!どうなさったんですか?最近急に姿をお消しになりますね」

息をきらしながらユキという少年・・・ちなみにここラリファの第二王子にあたる・・・が、背の高い薄茶色の髪をしたやや冷たい印象を受ける青年セキ・・・こちらはラリファの第一王子、時期国王にあたる・・・に笑顔で話しかける。

「なんでもない・・・いい加減俺も20歳なんだ、いちいちどこに行くなどと言わない」

「でもお母様が心配なさってましたよ?」

「いつまでガキみたいなこと言ってる!親が心配するからって年じゃない」

「でも、お兄様・・・」

「ユキ、おまえは癪に障る奴だな」

「お兄様・・・ごめんなさい・・・」

セキは踵を返し、ユキに背を向け、その場を去った。取り残されたユキは、ここ何年か折り合いの悪くなってしまった兄の背をただ見つめていた。

 

 

夜の海の上を海賊キリンの船はラリファへと向かっていた。

「皆、これから海上戦士団としてラリファで警護を行う。ルーンの民、ワオンの村の援軍は確実だが、ラリファをヘリオスの手に落とせば我らセレーネとしては大変な痛手となる。時刻は人々も眠る頃となって辛いかもしれんが、よろしく頼むぞ」

キリンは船の甲板に部下を集め、そう告いだ。威勢のいい返事をしつつ、海賊たちは皆真剣な顔つきをしていた。

「ユウギリ・・・おまえには何人の護衛をつければよいか?」

キリンがそうユウギリに告げるとユウギリは予想外だというように目をパチパチさせた。

「僕はここに残るの?僕もラリファが万が一の時は戦うよ。足ひっぱったりしないから」

「いや、ユウギリの実力がたしかなのはわかる。しかし・・・おまえはヘリオスから来た。戦うのは・・・辛くなるだろう・・・」

キリンとしても優秀な戦士・・・とりわけユウギリのような優れた魔術を扱う戦士は欲しいところだが、大事な友の忘れ形見に辛い思いはさせたくなかった。

「キリン殿・・・お気遣いありがとう。でも、僕は戦えるよ。アスカに罪を重ねさせたくない・・・侵略行為を止めることができるなら、戦うよ」

ユウギリの目は真剣そのものだった。その目はキリンの友人、アサヒによく似ていた。

「わかった・・・無理してはならないぞ・・・シオン、ユウギリから離れないようにして・・・などと頼まずともそうするか」

「ええ、命に代えてもユウギリ殿は守らせて頂きます」

「それから、ハヤト、ヘイナ、おまえたちも共に行動するように。2人は遠距離からの攻撃が得意だからいっしょに戦えば戦いやすいだろう」

「了解しました!」

ユウギリと目が合い、ハヤトは二カッと笑ってみせた。

「キ!キリン様!ラリファの方に異変が!!」

「何!?」

キリンが望遠鏡を見張りの部下から借り、覗く。そこにはたしかに火の手が上がっていた・・・しかも一番警護が厳しいとされているはずの城から・・・。

 

 

 煙が立ち昇り、剣と剣が交わる金属音、断末魔の叫びが城内に響く。ユキは幸いまだ私服姿で眠りに就いていなかったので自室から飛び出すも廊下の死角で蹲っていた。嗅いだことの無いおびただしい血の臭いに吐き気がする。

『誰か来て・・・誰か・・・!!』

ユキが祈りを捧げるも彼を見つけたのは・・・。

「そこにいるのは・・・誰だ!?」

ユキは涙目になっていた。そこにいたのは黒髪の凛々しい男性・・・しかし、ユキから見れば敵の、ヘリオス騎士団団長トワだった。

「第二王子・・・ユキだな?悪いがおまえのことは殺せという命令が出ている。死んでもらう」

トワは剣を構える。ユキは腰が抜けたのか動けず、ガタガタと体を震わせていた。

「きっさまー!俺のユキに手出してんじゃねえー!!」

突然煙球が2人の間に飛び込んできた。2人が咳き込んでいる隙にすばやく少年、カインがユキを抱きかかえてその場を走り抜けた。しかし前方をヘリオス騎士団員2人に塞がれる彼の武器は両手剣、しかもよほどさっきの出来事が怖かったのか気を失っているユキを抱えている手では・・・。

「アルト!頼む!!」

「了解!!」

アルトは片手に1本づつ剣を持った、二刀流で騎士団員に応戦する。騎士の剣術は小柄で俊敏なアルトに命中することなく逆に彼女の双剣で武器を遠くになぎ払われた。

「今日は逃げ優先!追ってこないでよ!!」

アルトはそう言うとカインと共に出口へと急いだ、彼らだけが知る秘密の出口へ・・・。

 

 

 ハヤトを先頭にキリンたちがラリファの港に入港し、人々を逃がすため武器をとる。シオンが投げナイフで牽制しハヤトとヘイナが剣術で応戦し、ユウギリが魔術でとどめをさす。見事な連係プレーで船着場からヘリオス騎士団員を遠ざけるのに成功する。

「なんで!ルーンとワオンから援軍が来ないんだ!!」

キリンが剣で敵を吹き飛ばしながら叫ぶ。

「あいつらも裏切った・・・??」

「そんな、サトシ殿やワオン族長殿はそんな人ではないはずだ!」

キリンが焦っているのは皆から見てわかった。今の状態からしてラリファは落ちる・・・城から攻め込まれていたのだから・・・。

「くそっ!何で城が最初にやられるんだ!?ヘリオスの奴らまた何かきたねえ策でも・・・」

「ひどい言われようだね」

ハヤトたちが声のした方を見た。そこには弓矢を構えている濃い金髪のエルフ少女、体術を得意としていそうな茶髪の勝気そうな少女、そしてロッドを構えた黒髪の瑠璃色の眼で冷たくこちらを見ている美しい顔立ちの少女が立っていた。

 

 

 心の剣と心の剣が激音を告げる・・・。