第5章 「同じ国の中で」
「!!ユ!ユウギリ!?」
「ナツキ・・・」
ユウギリと勝気そうな少女、ナツキが互いの姿を認め、驚く。今2人は敵対している。本当は従姉妹だが・・・。
「なんでおまえそっちに・・・」
「こんな戦争意味が無いよ、アスカに止めてもらうんだ!」
「そんなの理想でしかないですよユウギリ様」
ロッドを持った少女ルリがユウギリにそう言い放つ。
「理想だったら何だっていうわけ?」
「言うだけ無駄です、あなたがそんなこと言うなんて驚きです。もっと聡明な方だと・・・」
「ふ〜ん、随分冷めた考えだね。それだけじゃ強くなれないよ!この小娘!」
「あなたとは同い年です・・・」
ユウギリがルリの言葉に相変わらずの強気な態度で言い返すとほうきを構える。ルリもその動作に対して驚くこともなく、ロッドを構えた。互いにいつでも魔法を放てる体勢・・・彼女らにとっては戦闘の意思表示だった。周りの者も2人の行動を見守る。魔術師同士の戦いになるならば詠唱の邪魔にならぬよう後ろに控えるのが戦士の常識である。
「ま!待てよ!ユウギリ!ルリ!!」
ナツキが2人を制する。ユウギリとルリはその声を聞き、詠唱はしないものを、互いの視線を外すことはなく、威嚇していた。
「何?ナツキ、ユウギリ様といえど敵だよ」
「ユウギリは俺の従姉妹だ!」
「だったらむこうにつけばいいでしょ?」
「だけど!おまえは親友だ!」
ナツキの声は悲痛なものだった。自分にとってはどちらも捨てたくはない人物。戦えばどちらかがいなくなってしまうかもしれない、最悪どちらもが・・・。
「仲間の騎士が何人かやられているんだよ?」
「でも!!いきなりやりあうなんて!何か方法があるだろ!?」
「考えるのは嫌いなんでしょ?上から任務もらって暴れさせてもらうんじゃないの?」
「だけど!だけどさ!!」
聞き入れる様子のないルリにナツキは声を荒げる。相変わらず瑠璃色の瞳には冷たい光しか宿っていなかった。
「ルリっていうんだね?あんたは何のために戦うのさ?」
「・・・国のためだ」
「へえ、じゃあ国のためならそこの2人も殺しちゃうんだ?」
「・・・・・・それが国の・・・ためなら・・・それも運命だから・・・」
「あんたは完全に思考が停止してるね。何でも鵜呑みにしないで自分の頭で物事を考えたら?だからあんたは小娘なんだよ!」
一瞬迷いのみられたルリの隙を逃さずユウギリが詠唱にとりかかる。
「風よ、眼には映らねども確かにあるその強大な力貸したまえ!吹き飛べ!!『突風』!!」
「土よ!盾・・・」
「遅いよ!!」
ユウギリのほうきの先端から突風が吹き荒れ、ルリのいるところめがけて一気にやってくる。
「きゃあああ!!」
ルリに突風が直撃し、ふっとんでしまう。ナツキとホノカが彼女を受け止め塀に激突する。
「!!ナツキ・・・ホノカ・・・」
「大丈夫ですか、ルリ・・・」
「これくらい何ともねえよ、俺を誰だと思ってるんだよ・・・」
「・・・・・ありがとう・・・」
痛みに顔を歪めながらも自分に気をつかってくれている2人に自然と感謝の言葉が出るルリ。同時に悔しかった。今までいくらスピード重視の風魔法を詠唱されたって防御できなかったことはなかった。ユウギリの魔力の前には自分は小さな力でしかない。
「・・・城がこの状態だ・・・あきらめるしかない・・・どうやら国民も船に乗り込んだようだ。深入りはまずい、私たちも退却するぞ」
キリンの沈痛な声が響く。ハヤトたちもそれに無言で頷いた。
「・・・ルリ、言っとく。自分で考えな。そうじゃないと何が大切か見失うことになるよ」
ユウギリは船へと血路を開きながらもルリにそう言い残して行った。ルリにはユウギリはひどく大人びて見えた。そしてひとつの壁となって立ちはだかったような感覚を覚えた。
ラリファはヘリオス神聖国に堕ちた。国王シエ、王妃マリアともに捕えることに成功した。しかし殺害命令の出されていた第二王子ユキの姿は見つけることができなかった。
丈夫なつくりの石造りの砦、ヘリオス騎士団の要塞の1室・・・自室にルリはこもり、考え事をしていた。しばらく部屋には人は入れていない。ナツキとホノカを除いては・・・。
「よう、ルリ、ま〜た、難しいこと考えてんのか」
ナツキが顔をドアからひょっこりのぞかせてそう言った。
「お菓子、持って来ました。お茶にしませんか?」
ホノカがかごを下げていない方の手でドアを閉めながらそう笑顔で言った。
「ナツキ・・・ホノカ・・・2人はヘリオスのために戦ってるんだよね?」
「ええ、そうなるでしょうね・・・ここは私の育った場所ですから・・・ですが」
「何?」
「私は・・・また出陣する時は・・・できれば遠慮したいですね」
「どうして?」
ルリから見てホノカは大人だった。彼女とも同い年だったが、逆境を耐え抜いた彼女はいつも冷静な判断を下すことができていた。
「・・・ユウギリ様が言っていたようにこの戦争はやはり無意味です。ヘリオスは経済的にこのガイアで1番裕福ですし、セレーネの人たちはヘリオスに攻め込むということはしません・・・どうしてこの戦争を始めたのか私にはよくわかりませんでした」
「・・・過去形なんだね」
「昨日ユウギリ様が言ってました。アスカ様を止めると。この戦争はもしかしたらアスカ陛下の怨恨が原因なのでは、と思ったんです」
「・・・怨恨・・・何の・・・」
「これも私の推測ですが、カオル様の・・・」
ホノカは言葉につまった。カオルが死んだ時のアスカの沈みようはまるで世界が終わったかのようだった。それまで明るくいつも笑顔だったアスカはガラリと人が変わってしまった。目には恨みの炎を燃やしつつも周りの者を射抜くような冷たい氷のような視線を向けていた。そのアスカを見て彼の親友でもあるユウギリと聖都近衛兵隊長リンが嘆き悲しむような表情をしていたのも印象に残っていた。
「恨みからことをおこしても結局は誰のためにもならない・・・」
「え?」
「ルリ?」
「・・・いなくなった・・・兄さんがそう言っていた・・・ねえ、でも私はそう簡単にユウギリ様みたいにあっちにつけないよ」
「だろうな」
「でしょうね」
「え?」
ルリの言葉にナツキとホノカが同じような反応を同時にした。
「私はもとをたどればエルフの森出身ですし、ナツキもワオンの村出身・・・つまりセレーネの者です。ユウギリ様もお母様はワオンの方ですし・・・ただ、ルリ、あなたは違う。ヘリオス出身の両親からヘリオスの聖都で生まれ、育った」
「じゃあ、私には無理なことなんだね」
「いや、そうとも言えない」
ナツキが真剣な眼をルリに向けた。
「大切なものがどちらにあるか・・・だ。あの場にはシオン殿もいた。シオンは代々続くヘリオスの名家の出身だ。ただ、ユウギリが大事なんだろう。あとへイナ殿もいた。彼もれっきとしたヘリオス人だ。でも・・・ヘリオスに剣を向けることを選んだんだな・・・みんな最後は自分で決めている。どの可能性でもあるんじゃないかな?」
ナツキの言葉を聞き、ルリは神妙な顔つきで考え事にふけようとした。
「さあ、お茶にしましょう。人の意見を聞いた直後で決断を出すのは得策ではないですから、いったん休憩、ね?」
ホノカが出したお菓子を食べる。ルリには初めての感覚“考える”ということ・・・。
「ラリファが堕ちた・・・」
キリンは責任を感じているように甲板で潮風に吹かれながらそう呟いた。
「キリン様のせいじゃないですよ!援軍が・・・!」
「いや、何かがおかしいんだ・・・何か確認がたらなかった・・・もしくは何かが裏で動いてた・・・」
ヘイナが冷静に分析したかのように語った。
「城が最初に落とされるなんて不自然だ。しかもサトシ殿が裏切るとは俺も考えにくい」
ハヤトはヘイナの意見を聞きながら彼の背後に視線をやる。
「・・・シオン、何してるんだ?」
ハヤトは後ろで白い鳩に何か命令しているようなシオンにそう尋ねた。
「伝言です。レイに調べてもらいましょう。ヘリオスも何か策を使ったはずですから」
「そうか・・・では私たちもルーンに行くぞ!ルーンにも何かあったかもしれない!」
「了解!!」
キリンの活気を取り戻した声に一同も元気な声で答えた。
「ねえ、大切なものってなに?」
ハヤトは突然後ろからしたユウギリの声に驚く。
「大切なものって・・・ハヤトの大切なものってなに?」
ハヤトはハッとした。いつぞやの夢と同じ質問・・・しかし、今度はすぐ答えが浮かんだのでニッと笑って見せた。
「仲間だ!キリン様やヘイナや、ここにいるみんな」
「そう・・・」
「ユウギリは?」
「僕は・・・正直よくわからない・・・レイやアスカやリンが大切・・・でもヘリオスに反旗を翻すのには異論がない・・・」
「そっか・・・」
「見つけるよ、今はアスカを止めたい一心だけど・・・僕はこっちで戦う、まだわからない何か大切なもののために」
「ああ、充分すぎる理由だぜ」
人々の心の中で何かが強く光りだす・・・。